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リティアはしばらく恋人たちの様子を眺めていた。こんなに人が多いのにまるでお互いの事しか見えていないようで、褒められた様子ではないのに、なぜだかとても羨ましかった。
ぼんやりしていると飲み物を買いに行ったヴェルターの帰りが遅い事に気が付いた。店は近くにあるはずなのに。リティアは目を走らせたが、リティアの目の届く範囲にはいなかった。不安になったリティアは立ち上がり、ヴェルターを探すことにした。彼の身の安全に不安を覚えたわけではなかった。
さっきみたいに女性に足止めされているのかもしれない。彼は優しいから無下に出来ないだろうし。
そう考えるとリティアの胸の内が穏やかではなくなって、つい足が急ぐ。ヴェルターは意外にもすぐに見つかった。近くにいるのが女性じゃなくてほっとする。ヴェルターはそこで古い友人と立ち話をしていた。横にはランハートとレオンがいた。二人も祭りを見に来たのか、たまたまここで会ったのだろう。だが軽装とはいえ貴族だとわかる二人と、平民服のヴェルターが気さくに話していると異質であるからか、物陰で話していた。リティアは見知った顔に自分も話に加わろうと近寄った。
私のこの髪、二人はなんて言うかしら。そう思うとわくわくする気持ちだった。
リティアは驚かしてやろうとそっと近づいた。
「……俺は……お前はどうなったんだ、ラン」
内容はよく聞き取れなかったがヴェルターの声が聞こえた。ヴェルターはごく近い関係の友人とプライベートな話をする時は砕けた話し方をする。
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