第9話 建国祭(後半)

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「……本人にプロポーズした」  ランハートが答えるとレオンがひゅーと口笛を吹く。 「最近は貴族でも政略結婚ではないのか? 」  ヴェルターが驚きの声を上げる。 「ああ。愛ある結婚も少なくないな。さすがに身分や国境を超えることは難しいがな。それも前例がないわけじゃない」 「言ってもランは、政治的にも問題ない家門の令嬢を選んで恋愛してるけどな。ランらしいぜ」 「……まあな。だが、愛は本物だ」  珍しいランハートの惚気にリティアはつい顔が緩む。声を掛けようともう一歩近づいた時だった。 「そうか。俺は……。結婚相手さえ自分で選べなかったな」  ヴェルターが呟いた。 「ああ。でも、」  レオンが口を挟もうとしたが、ヴェルターはふっと笑ったようだった。 「好きな子と結婚出来るってどんな気分なんだ、ラン」  リティアに背を向けているヴェルターの表情はわからなかったが、声は明るいものでは無かった。リティアはさーっと血の気が引くのを感じた。  リティアは誰にも気づかれないうちに背を向け早足でその場を去った。自分自身もヴェルターと同じ意見だった。物心ついた時には結婚相手は自分の意思なく決まっていて、全国民が知ることとなっている。婚約破棄を望み、すべての手筈を整えて自分の位置を悪女に譲るつもりだった。だが、それを目前にしてヴェルターに同じことを言われて傷つくのは身勝手だ。じわりと涙が滲み前が霞む。  涙と早足のせいで前をよく見ていなかった。バンッと誰かにぶつかってリティアは顔を上げた。 「失礼、お嬢さん。大丈夫ですか」
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