第9話 建国祭(後半)

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 聞き覚えのある声に、誰であるかを確認しようとパチパチと瞬きをして涙を乾かす。相手も同じように瞬きを繰り返した。ゆっくりと脳が相手を認識した。漆黒の髪、ミステリアスな瞳。ウォルフリック・シュベリーだ。 「リティア! 髪色が違うから君だって気づくのに時間がかかったよ」 「ウォルフリック。あなたまでここに来ているなんて」  リティアが言うと、生真面目なウォルフリックは目に見えて動揺した。 「ああ、ちょっとね」  服は軽装だが、もしかして、とリティアは思った。 「ウォル、もしかして警備なの? 」  図星だったのかウォルフリックは目を泳がせた。 「いや、公の命ではなく、用が無い者は自主的にここにいる。非番だが用も無くて……」 「なるほど。だからレオンもいたのね」 「う、そうなんだ。不自然に見えないように、いや、半分は自分も楽しめるように誰かを誘って行けばいいと上官からアドバイスがあった」 「じゃあ、レオンたら、ランハートを誘ったの? なんて仲良しなの」 「……いや、そうじゃなくて。フリューリング卿は令嬢たちに連れて行ってくれってせがまれてね。たまたま通りかかったアルデモート卿と行くことになってると逃げたんだ」 「ふふふ、レオンたら。ランもなにも本当に来なくても。おかしいわ」 「うーん、あのままじゃ令嬢たちがつかみ合いの喧嘩でもし兼ねない雰囲気だったよ。いや、大変だね、彼も」 「何言ってるのあなただって……。あ、もしかして、どなたかと来ているの」 「その、たまたま通りかかった彼女を運良く誘えたんだ。勿論彼女を危険にさらしたりしないし、いざとなれば君と殿下のことは……」 「ストップ、ウォル。私たちは大丈夫よ。ちゃんと警備も厳重だわ。それに、平和な街で楽しい時間を台無しにしたい人なんていないわよ。非番の人まで出番はないはずよ。どうか楽しんで」 「ああ。君も。ブラウンの髪も素敵だね。リティ。じゃあ、もう行くね」  ウォルフリックはあっさりとリティアの元を去る。リティアは彼女の元へと急ぐウォルフリックを見送った。彼もさっきは彼女の元へ急ぎ過ぎて前を向いていなかったのだろうか。
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