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ウォルフリックの向かう先にはべルティーナ嬢の姿があった。彼女を見つめるウォルフリックの表情は熱に浮かされたようで、少年のように純粋だった。ウォルフリックが自分の元へと来るのを待つべルティーナ嬢の表情もまた彼に何かを期待した目をしていた。気持ちを、愛を、知りたい。そんな感情が瞳から彼に注がれていた。リティアは二人を通して自らの感情に向き合った。
疑似体験など必要ない。あれが恋というのならば……。私はこの感情を知っている。
リティアは収まったばかりの涙の兆候を感じ、逃すために二人から視線を逸らした。戻らなくては。そう思いヴェルターと別れた噴水まで向かった。ほぼ同時に戻ったようでヴェルターの後ろ姿が見えた。
「どこかへ行ってたの、リティ」
「ええ、あなたの帰りが遅かったから少しうろうろしてたの」
「ああ、ごめん。レオとランに偶然出会って立ち話をね。髪色を変えても僕はすぐわかるって言われちゃったよ」
リティアは知っていたことを知らない振りして誤魔化した。
「そうね。私もそう思うわ」
「そうか。残念だな」
ヴェルターは前髪を一束持って自分の髪を確認するとそう言った。
「残念? どういう意味? 」
「僕は誰かにはなれないってことさ」
「それはそうでしょう」
「うん」
ヴェルターはどこかもの悲し気な笑顔だった。リティアはどうかしたのかとヴェルターに尋ねようとしたタイミングだった。ひと際目立つ出で立ちの紳士が前から歩いて来た。ヴェルターは大きなため息を吐いた。
「あの人……」
ヴェルターはさっと背を向け、群衆の目に着きにくい場所へと進む。
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