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◇ ◇ ◇ ◇
――――ヴェルターは、今夜が自由に出来る最後の日だと悟っていた。日に追うごとに自由は減り、成人した後は“非公式”な外出など出来ることは少ない。ましてや、“お忍び”など許されはしないだろう。だからこそ、そう思いきつく目を閉じた。
だからこそ、今日くらいは。
だが、願い虚しくこんな日でさえ、自分の婚約者とウォルフリック・シュベリーが並ぶ姿を目撃する羽目になった。まるで、往生際が悪いと神に駄目押しされている気になった。リティアは、彼の去った背中を見つめ涙ぐんだ。見るのが辛いのか目を逸らす。ヴェルターはそんなリティアを見つめ、先に噴水へと戻ると気づかない振りをした。リティアの涙は戻って来た時にはもう乾いていた。それがいじらしく感じ余計にヴェルターの胸を締め上げた。リティアの涙はヴェルターの決心を更に後押しした――。
――どう気持ちを切り替えたのか、隣でフルーツを絞ったジュースを珍しそうに美味しそうに飲む婚約者は憎らしいほどに愛おしかった。
ヴェルターとリティアがアンの一行に出会ったのは直ぐ後の事だった。アンは長いブラウンの髪をなびかせて手を振っていた。
「賑やかで楽しいわね。子供たちも初めての夜更かしを経験したわ。でもそろそろ帰るわね。あなたたちは……どうするの? 」
「ああ、もう少し楽しんで行くよ」
「そう。ではまた」
別れ際、アンはヴェルターに意味深な視線を投げた。何を意味するかリティアにはわからなかったが、ヴェルターには十分通じた。ヴェルターはアンの奨励に応えることはないだろう。
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