第9話 建国祭(後半)

16/26
前へ
/200ページ
次へ
 ◇ ◇ ◇ ◇  街は夜通し賑やかさが続く。酒を飲んで陽気になった男たちの大きな声が聞こえる。その前を通り過ぎ、ヴェルターは賑やかさが見える所に腰を下ろし、その横にリティアを促した。 「少し話をしよう、リティ」 「ええ」 「……初めて会った日を覚えてる? 」 「ええ。とても緊張していたわ」 「ふ、ふふ、あれでかい、リティ」 「ええ。あれで、だったのよ。初めて会ったお友達に何か話さなきゃって必死になってた。だってあなたはとても無口だったから」 「僕も緊張してたんだよ。……妻に、伴侶になる人だって聞かされてたからね。この子と結婚するんだって思うと、不思議な気がして。だけど君は、あはは、僕より落ち着かなくてずっと夫人に怒られてた」 「……ヴェル、よしてしてくれない? 」  リティアは恥ずかしがって顔を手で覆って俯いた。 「いや、嬉しかった。リティ、……君はとっても可愛かった」  からかっているのだと、リティはむくれて顔を上げた。だがヴェルターは今にも泣きだしそうな申し訳なさそうな顔をしていた。予想してなかった表情にリティアは昔の泣き虫だったころのヴェルターを思い出していた。  ヴェルターは一呼吸置くとすうっと息を吸う。瞳には強い決意が乗っていた。 「リティア、僕たちの結婚は一度考えてみる必要があると思うんだ。もうあの頃の、幼い子供ではないのだから」  リティアは、覚悟していた日が来たのだと、目を閉じヴェルターの言葉を受け入れた。 「ええ、ヴェルター。そんな時期が来たのだと思っていたわ」
/200ページ

最初のコメントを投稿しよう!

675人が本棚に入れています
本棚に追加