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リティアはヴェルターの瞳を見つめた。ヴェルターも慈愛の目でリティアを見つめた。
初めて会った日、見つめ合って微笑んだ。手を取って走り、共に怒られ、共に褒められ、ダンスのパートナーは何度も務めた。いつしか手はつながなくなっていつしか体をひっつけることなく適度な距離を取るようになった。体の距離はそのまま心の距離だったのかもしれない。
――街は変わらず賑やかだった。
「建国祭の最終日は、パレードがあるだろう? 」
「そうだな、国王陛下を拝見できるぞ」
「王太子殿下ももうすぐ成人の儀だな」
「さぞかし立派になられただろう」
街の人たちの声が聞こえてくる。
「ああ、いよいよ公爵令嬢と結婚されるのね」
「そうだ。こんな祭りよりもっと盛大に祝われるだろう」
「あの小さかった王子と小さなレディが結婚するなんてね。感慨深いわ」
「愛らしい二人だったわ。仲よさそうにいつも二人ではしゃいでた」
「今から楽しみね」
国民にとって幼い時からずっと見守って来た二人の結婚は自分たちのこと以上に嬉しい事だった。まさか当の本人たちが後ろにいるとは思わずに話している。
聞こえているはずの二人は何も言わずにその場で時を過ごしていた。やがて、いつものようにヴェルターが微笑むのを合図に二人待たせた馬車まで向かった。馬車の中ではヴェルターが他愛のない話をして、リティアはその他愛ない話に時に相槌をうち、時に笑った。
「リティ、君は……」
リティアを部屋まで送ったヴェルターは“君の感情を優先すべきだ”そう言いかけたが、リティアが遮った。
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