第9話 建国祭(後半)

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◇ ◇ ◇ ◇  ヴェルターはバシャバシャと手荒に髪を洗った。今だけは自分で洗い流したかった。錆のように赤茶けた水が流れていく。染めたって、仕方がないのに、馬鹿だとなじる。 「俺は俺でしかないのだ」  鏡に映った髪は光を浴びなければただの乳白色に見える。この日ほどこの髪が嫌になった日はなかった。ぐっと奥歯を噛む。どうすればリティアに一番負担がかからないだろうか。自分から解放して好きな男と結婚させてあげられるだろうか。  初めて会った日、ヴェルターはくすぐったい気持ちでリティアを迎えたことを思い出していた。  朗らかで感情のまま発言し行動する。まっすぐに自分を見つめる淡い紫の瞳。春の花の色をした柔らかな綿のような髪は見ると心が浮き立った。“可愛い”と思った。自分の結婚する子が可愛くて嬉しくなったのを覚えている。  振り回されたことのないヴェルターがわがままに付き合わされるのは悪くなかった。“妹がいたらこんな感じだろうか”対等に話が出来る子供は初めてで、ヴェルターはリティアと過ごす時間に夢中になった。  アカデミーに入ると気が置けない友人が出来、男女を意識する年になると、もうリティアと走り回ったりはしなくなったが、それでもヴェルターにとってリティアは特別だった。
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