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誰かがリティアの話をしていると聞き耳を立てたし、リティアを見かけると目で追った。異性と話していると何となくいい気分ではなかったが、リティアとヴェルターの婚約を知らない者はいなかった。そこに安心していたように思う。アカデミーを出るとリティアと会う回数はずっと減った。……約束しなければ会えないのだから。
ヴェルターは、はぁ、とため息を吐き、憔悴していた。
“結婚する”それを本当の意味で理解すると、リティアを前に恥ずかしいような感情が芽生えた。リティアに見つめられるとぐっと胸が詰まり目を逸らしてしまう。胸が高鳴り、その柔らかな髪や肌に触れたくなる衝動がある。だが、リティアは触れてはいけない神聖なもののようで、そんなことを思う自分が汚らわしく感じた。感情を顔に出さない教育をされていたがそれが一番役に立ったのはリティアと会う時だったかもしれない。だが、それでもリティアの前ではぎこちなくなってしまう自覚はあった。
楽しみだった。やっと、ここまできたのだと。リティアは全国民に祝福され自分の妻になる。……やっと、その日を迎えられるのだと。触れていい日が来るのだと。
ヴェルターはぐっと空を掴むように手を強く握りしめた。――何を、王族に生まれ、何を期待していたのだろうか。たまたま自分の婚約者を好きになっただけで、本来俺の結婚など、気持ちのままにするものではないというのに。
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