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ヴェルターは前髪の水がしたたるのも気にせず部屋を出るとテラスへと出た。外気に当たりたかったのだ。気温の高い湿っぽい空気は風邪をひく心配はなさそうだった。だが、風をひこうがヴェルターはどうでもいい気分だった。王都でのパレードや宮殿で行われる盛大なパーティーの事を考えると投げやりになるようなことは出来ない。自分の体調管理すら義務なのだ。
全部投げ出せたらいいのに。
いや、最後までやり遂げよう。リティアが正当な理由で自分と婚約破棄出来、誰からも責められることなく彼と……。
頭ではわかっているが想像すると胸が痛く、うまく息が出来なかった。自分からリティアに別れを告げた。自分が言わなければ、リティアは彼への想いを胸に抑え込み躊躇することなくこのまま王太子妃になるのだろう。……俺が、何とかしなければ。それなのにはっきりと言わず可能性を残した言い回ししかできず、情けない気持ちになる。……しっかりしろ。そうは思っても、うまく心が機能しない。今くらいは、今夜くらいはこの感情に向き合ってもいいだろうか。
ヴェルターはぼんやり月を見上げた。月くらいは、似た色の髪を持つ情けない男を慰めてくれるだろうか。と、感情に浸ろうとした時だった。
「ヴェル! 何をやってるの風邪をひいてしまうわ」
同じく外の空気を吸いたくてテラスへと入って来たリティアはほぼ反射的にヴェルターの濡れた髪へと手を伸ばしごしごしと拭いた。最初こそ呆気に取られてなすがままだったヴェルターはくすくすと笑い出した。
そうだ、こんなリティアだからこそ幸せを願わずにいられないんだ。
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