第2話 悪女様こちらの準備は整っておりますよ

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 マダム・シュナイダーのドレスがすぐに仕上がれば、月に一度の王太子ヴェルターの訪問時に着たらいいのでは?という名案に気がついたリティアがだったが、急ぎではないオーダードレスがそんなに早く出来るわけもなかった。  ヴェルターの次の訪問でもいつも通り季節の事や天気のこと当たり障りのない会話を探し、最後にヴェルターはいつもの社交辞令を言って去って行った。 「王宮に来た際には、僕のところにも寄るといい」 「ええ、そうするわね」  リティアの返事もいつも通りだが、いつもと違うのは本当に寄らなければならないことだ。それ用にドレスをオーダーしたのだから。 「まだなの? 」  ヴェルターをもてなしたティーセットを片づけにミリーが部屋から出て行くと、リティアは何度となく同じ言葉を溢した。正直、結婚することのない婚約者との時間は気持ちをどこに持って行っていいかわからなかった。恋人ではなく婚約者であるので二人の間には何もなかった。厳密な決まりはないが、結婚するまでは清い関係というのが暗黙の了解でもある。そもそもが、紳士の鏡、ヴェルターである。昔からの付き合いであるリティアにさえ失礼のないように一定の距離を置いて接するのだ。  あのヴェルターが恋に落ちたら本当に婚約破棄などやってのけるのだろうか。恋というものはそこまで盲目的になるものなのだろうか。今はこう思っている私も、いざとなれば嫉妬に狂うのだろうか。いいえ、嫉妬に狂うのはヴェルターに想いを寄せてる場合だ。私は嫉妬に狂う予定は無い。だけど、恋ってどんなものなのだろう。
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