第2話 悪女様こちらの準備は整っておりますよ

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 リティアは恋というものに漠然とした憧れはあった。だが、貴族令嬢に生まれた以上、恋や愛で結婚相手は決められないことは分かっていた。だが、婚約破棄された後ならば……? そうなれば相手を選べる可能性も出て来る。成人した途端に結婚しなければならない理由もなくなる。恋はヴェルター以外の恋人も婚約者もいない殿方にすれば問題ない。  リティアは前世の記憶が蘇る前は、当然王太子妃になるという未来を疑ったことは無かった。幼いころからの徹底した王太子妃教育は、今やリティアにしっかり染み付いていて完璧なる淑女の姿に仕上がっていた。それはそうだ。あとわずかな期間で王太子妃になるのだ。そのために教育を受けたのだから。……ならない、だなんて夢にも思わなかったけれど。  だが、リティアはこれまでの努力を無駄だとは思わなかった。リティアには王国の最も高貴な女性に匹敵する教養が身についているのだ。マナーや所作、知識。無知で眉をひそめられることはあっても、極上のマナーで後ろ指をさされることはないのだ。例えそれらを披露する場がなくても、持っていて損する知識ではないということだ。  ……芸は身を助けると言うし。また、ここの表現ではない言い回しがすらすらと出てきた。リティアはこの感覚にもなれつつあり、一人なのをいいことに苦笑いした。そうよ、教育された淑女が必要な人だっているかもしれない。 「ひょっとしたら他国の王妃になる可能性だってないわけじゃないわ」  それも一つの政治的な役割かもしれない。その場合、重荷から解放はされないけど仕方がない……。リティアはそんな風に思った。  恋、かぁ。相手は自分で決められるかもしれない。リティアはそのことに気が付くと少しばかり宮廷に参上するのが楽しみになった。宮廷には、出仕している貴族が多く、出入りの許された貴族たちには恰好の社交の場でもあった。それなら、新しいドレスも少しは意味があるのではないか。と、僅かな期待を胸に抱いた。
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