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「だって、せっかく誤解が解けたんだ。婚約者らしいことしたいだろう」
ヴェルターが言いながらリティアの頬に口づけ、リティアはますます体を強張らせ顔を赤くした。
「リティ」
「は、はい! 」
ごくごく近い距離で目を合わせて来るヴェルターに、リティアは“こ、これは”とぎゅっと目を閉じた。
「リティ。目を開けて」
「え、目? 」
「うん」
キスだと勘違いしたリティアは羞恥を咳払いでやり過ごした。ヴェルターはそっとリティアの手を取り、手の甲にキスを落とすとブレスレットを着けた。リティアは手首のひんやりとした感触に贈り物をされたのだと気づく。華奢な金の鎖に真珠が一粒輝いていた。
「いつか、君が僕の髪みたいだって言った真珠を、買っていたんだ。でもずっと渡せなくて。僕の髪色と同じ色の装飾品なんて、欲しくないだろうなって」
「ヴェル、嬉しいわ。ありがとう。とっても綺麗ね。欲しくないわけないじゃない」
「……君だってずっと、特に最近は僕によそよそしかったから。それで、シュベリー卿を好きなんだなって勘違いをしてしまったんだ」
「あ……」
そうだった、とリティアはヴェルターに隠していたことを打ち明けることにした。これ以上誤解されたくはなかったし、不安にさせたくもなかった。
「ヴェルター、あなたに話したいことがあるの」
ヴェルターは緊張の面持ちで姿勢を正す。ごくりと喉が動いた。
「……実は、忘却の魔法が解けたみたいなの。それで……それでね、私はずっとあなたから婚約破棄されるのだと思っていたの。何の記憶かわからないけれど、確信していた。今となってはひょっとしたらそんな物語が過去に流行っていたのかもしれないかと思う。あなたとお似合いの悪女が現れて、あなたは彼女に出会って本当の恋を知るの」
「……悪女。いや、そういえば君は時々理解できない言葉を口にすることがあった。そういうことか」
「あなたをその悪女に譲る準備をしていたの。自分が傷つかない準備を……。ごめんなさい、それであなたを傷つけることになった」
「ああ、腑に落ちた。そうか、そういうことか。リティ、それによって君の体調や気持ちに辛いことはなかった? 大丈夫かい? 」
こんな時まで自分を心配するヴェルターにリティアはもう100回はこえてるだろう自己嫌悪に陥った。
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