第3話 秀抜な男性と偶発的を装った何らかの力が働いた計画的出会い。

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「そんなわけにはいかないよ、リティ。ゆっくりしていってくれ」  ヴェルターの声から、感情を読み取ることは出来なかった。だが、リティアはいつものヴェルターの社交辞令に従ったことを後悔していた。通じないやつだと思われている気がした。  ヴェルターの勧めてくれる椅子に腰を落とすのも憚られたが、こうなればヴェルターもリティアに対応するつもりなのだろう。 「忙しかったんじゃないの、ヴェル」 「なぁに、君の訪問ならいつでも歓迎だよ」  ヴェルターはにこやかに返す。 「……うそつき」 「え……? 」 「いえ、何も。無理はしないでね」 「うん。ありがとう。どのみち、そろそろ休憩しろってエアンが煩く言う頃だったんだ」 「そう? ではちょうど良かったわね」 エアンはヴェルター付きの高位執事であるが、ヴェルターにはっきりと進言できる稀なる存在である。年のころは、ヴェルターと倍ほどちがうくらいのベテラン執事だ。リティアはヴェルターの優しい笑顔を前に、薫り高い紅茶を口に入れた。  いい香り。文句なしに美味しい。ここへ来る時には必ず入れてくれる変わりない味。久しぶりに味わって懐かしい気持ちになる。ふと、まだ楽しかったころの事が思い出された。ほんの数年前、あれ……?  リティアは記憶が部分的に出てきたあたりから、ヴェルターと結婚しない未来を考えて、ついここへは足が遠のいてしまった。だが、ヴェルターはどうだろうか。リティアの態度から悟られ、それから気まずくなった……のではない。
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