第1話 暫定ヒロインなの、知っていますからね

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 前世と言われる世界で読んだ本なのかどこかで見たのか。ひょっとして自分が経験したのかはっきりとしない。物語(つくりもの)なのか史実なのかも。とにかく、とリティアは手遊びしていた髪を離すとごろんと仰向けに転がった。精巧な天井の造りが目に入る。――王国屈指の貴族、オリブリュス公爵家の娘として生まれ、さらに生まれながらに王太子の婚約者である自分は、この世界の物語でのヒロインであることを確信していた。  この容姿からもヒロインで間違いないだろう。ああ、と両手で顔を覆う。ヒロインだ。ヒロインだけど……。そうじゃない。きっとそうではないのだ。おぼろげな記憶の片りんをかき集める。正当な話であれば実際に結婚するまでに悪女と呼ばれる“悪役令嬢”が現れ、散々悪事を働きヒロインを苛め抜く。やがて悪女の罪がヒーローの活躍で露呈し、断罪される。そして最後はその試練に耐え抜いたヒロインがにヒーローと結ばれるハッピーエンド。悪女の役割はいい感じに物語の紆余曲折を盛り上げ、二人の愛をより強固なものにする手助けをすること。  だが、そうではない。正統な物語の流行は終わったのだ。悪女は実は断罪されるほどの事はしておらず、むしろ世界を変えるほどの自由な女性性解放へのパイオニア。ヒーローには目もくれない自分軸のしっかりしたぶれない人。自分に興味を示さなかった悪女にヒーローは逆に彼女の事が気になり始め、彼女を知ろうと接触を謀る。そこで実際に見た彼女の異端ともいえる本当の姿、魅力に取りつかれる。  
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