第3話 秀抜な男性と偶発的を装った何らかの力が働いた計画的出会い。

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「殿下、失礼します」  入って来たのは王太子付きの補佐官だった。ヴェルターは音もなく彼の前に立つ。 「マルティン・アルデモート。来客中だ」    来客の予定があっただろうかと不審な顔をするマルティンは視線の先にリティアを認めるとサッと身を屈め挨拶をした。 「これは失礼、レディ……」  慌てて立ち上がろうとしたリティアをヴェルターは手で制すとマルティンはそのまま出て行ってしまった。マルティンはアカデミー時代もその後の教育機関でも常に主席の頭脳明晰な人で、代々文官の家系で父は宰相である。だが、そうは見えない可愛らしい風貌だった。 「お忙しいのではないかしら」  ヴェルターがソファーに静かに腰を落ち着けたのを見て、リティアは伺う。 「いや、ああ、構わない」  ヴェルターはリティアの様子を確認するように視線を投げると、すっとティーカップへと視線を落とす。自然なようで不自然な仕草に、リティアは帰る旨を伝えた方がいいと思った。正直、マルティンのお陰で気まずさから逃げられると思ったのも事実だ。 「すっかり長居をしてしまいました。そろそろお暇いたします」 「……もうかい? 」 「ええ。やはり前もって連絡する方が良かったわね。アルデモート補佐官にもまともにご挨拶もせずに……」 「構わない」 ぴしゃり言われると、それ以上言えなくて、ヴェルターの顔色を窺ったが、いつもの優しい笑顔だった。 「……では」 「君の馬車を王太子宮のファサードまでつけるように侍従に言いつけよう。それまではここで待つといい」 「ええ、ありがとう」  ヴェルターはドアの外にいる侍従に馬車の手配を命じた。また少し気まずい時間が延ばされた。いつからだろうか。リティアはこの静寂の中、この沈黙が永遠に続くのではないかという錯覚にとらわれた。 「そうだ、リティ、次の君との面会は時間が取れなくなりそうでね」    ヴェルターに申し訳なさそうにそう言われたが、リティはほっとしてしまった。 「ええ、わかったわ」  リティアが了承すると、ヴェルターはいつものように微笑んだ。
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