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「ええ、わかります」
彼の言葉には同情心が混じっていて、ヴェルターは何がだろう、とマルティンの顔をよく見ようと数回瞬きをした。
「ここのところもう何年もお忙しい状態が続いておりますし、成人されるとますます余暇などないに等しいでしょう。わかります、わかります。実においたわしい。全く自由もなく、そのたぐいまれなる光り輝く容姿ではお忍びで出かけるのもままらないでしょう」
マルティンは人の話を聞かない所がある。が、ヴェルターはもう少し聞いてみようと思った。彼は、頭は切れるのだ。齟齬をきたしてはいるが、何か妙案が飛び出てくるかもしれないと期待したからだ。
「あることには、あるとの噂でございます。一時的ではありますが……外見を変える魔法薬が」
「はあ。一時的に変えても……」
仕方ない気がするのだが。ヴェルターの髪色や瞳の色は全国民が知るところだ。今更変えたところで何があったのか国民の憶測が飛び交うことになるだろう。ヴェルターだってどうしようもないことがわかっていて口に出してしまっただけだった。……リティアが“白飛びしちゃってる”などと言ったものだから。自分とずっと一緒にいるリティアの目の配慮すべきか、いや、正直少し傷ついたのもある。
「ええ、たまには誰の目も気にせずに自由にお出かけになりたいことでしょう。そのあたり私も理解はあるつもりです」
「ああ。そうだな」
そうかは知らないが、ヴェルターは彼を肯定した。
「幸い、王制の膝元首都ルーイヒは大変治安が良い」
「ああ、そうだな」
まどろっこしいマルティンの話にも、ヴェルターは付き合える辛抱強さを持っていた。
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