第1話 暫定ヒロインなの、知っていますからね

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 「“ふ、面白い女だ”とか何とか言って笑うのよね」  普通、淑女に対して面白い女は誉め言葉ではないけれど……。ヒーローが発する“面白い女”というセリフはヒーローが悪女に魅かれているという一つの証拠だ。間違いない。きっともうすぐ悪女と呼ばれる女性が登場して、今まで散々ちやほやされてきた私は嫉妬に駆られ感情のまま自分勝手に行動したことによって罪を犯す。そして王都から、ひどい場合は国外へ追放でもされるのだろう。悪女、と見せかけてそっちが真のヒロインよ。  つまり、自分は悪女とヒーローの恋心を盛り上げるための存在。  リティアは自分がいずれ婚約破棄される運命だと悟った時こそ慌てふためいたが、よくよく考えればそう悪い事では無かった。王太子妃はリティアには荷が重かったらしい。ほっとする感情にそう認識した。ずっとどこかで気を張っていたのだ。  婚約者のフリデン王国王太子――ヴェルター・フィン・エアハルドは生まれながらに王位継承が約束された高潔な存在だった。長い付き合いであるリティアでさえ、声を荒げたのを聞いたことがない、温厚な性格。端正な姿かたちからは知性があふれ出ていた。上に立つ者の資質を生まれながらに兼ね揃え、そこに教育(後天性)の礼儀作法マナーが備わっていた。……完璧な紳士。  だが、リティアは彼と婚姻を結ぶことに夢見たことは無かった。どのみち貴族の婚姻に愛や恋は重視されない。親が地位や情勢、政治的内情で決める。今回の事で言えば、リティアの父、オリブリュス公爵と王が古い友人であったからだ。  リティアのヴェルターに対しての想いは、尊敬と友愛。胸が揺さぶられるほどの熱情は無かった。だからこそ、リティアはこの王太子妃居場所を譲る決心ができたのだ。
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