第4話 王子、苦悩する

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 辺境伯からの手紙にはラゥルウント王の詳細には触れていなかった。端的な内容だった。  ヴェルターはいずれ王位を継ぐことになる。今から面識を持った方がいいということだった。“殿下とも気が合うでしょう”と、意味深な言葉が添えられていたのが気にはなったが、一度視察も兼ねて辺境伯のところまで行くことにした。勿論、事前にラゥルウントの王へ謁見を求める文書も出した。  ――ところが、ラゥルウント王より書簡は届かず、代わりに辺境伯から女王と会う手筈を整えたと連絡があった。彼女が堅苦しいのを嫌うからという事らしい。外交においてこのような手順を踏んだことなどなく、ヴェルターは戸惑った。間に入っているのが辺境伯でなかったら抗議していただろう。  とにかく、()()()がこうおっしゃるのなら行くべきなのだろう。ヴェルターは執事に返事を渡すと、想像できうる隣国からの要求を覚悟した。鉱山は他の領土にもあるが、ラゥルウントとの国境の鉱山による収入も今やフリデンの重要な収入源になっていた。  今更、軋轢を生むわけにはいかない。まさか、過去の様に戦争に発展したりはしないだろうが……。鉱山周辺は多大な富を生むが、同時に多大な金もかかっているのだ。何万という国民が職を失いかねない事態は避けたい。叔父上のところまでは早くて10日ほどかかる。滞在時間を含むと、次回のリティアへの訪問は出来ないかもしれないな。
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