(補佐官、苦悩させられる)

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(補佐官、苦悩させられる)

 マルティン・アルデモートは王太子の執務室へと急ぎながらなぜ呼び出されたのかを考えていた。急ぎの用はなかったと思ったが。不備があったのだろうかと、執務室に入ると、王太子の視線は机の横、窓枠に固定されていた。  これはよっぽどお怒りなのかと身に覚えはないが背筋に冷たいものが走る。なかなか口を開かないヴェルターにマルティンはから声を掛けるわけにもいかず、マルティンは自分がしでかしただろうことを出来るだけ思い出すことに努める時間となった。  窓の外は季節の嵐で、歴史ある宮殿の窓はガタガタと大きな音を立てていた。……窓を強化しろとのことだろうか。それなら自分ではなくエアンが呼ばれるはずだ。 「マルティン」  ヴェルターの声にマルティンはひっ、と肩を上げた。 「はい、なんでございましょうか」 「君の意見を聞きたい」 「は、意見でございますか」  叱責を受けるのではないとほっとしたが、ヴェルターの視線はまだ窓枠にぎっちり固定されていて何の意見なのかなかなか聞かせて貰えなかった。  ふう、とため息を吐くと、ヴェルターは言った。 「マダム・シュナイダーの処遇についてだが」と。  予想だにしていない名前にマルティンはポカンとした。マダム・シュナイダーの処遇について、を自分に意見を求めるものか。彼女が不正でもしたのだろ…… 「マルティン、昨日、リティアのドレスは見たか? 」  考えのまとまらないまま話が続けられ、マルティンはなぜかを考えるより昨日のリティアのドレスを思い出すことを優先した。 「ええ、見ました」 「何だと!? 見たのか!? 」  ヴェルターの窓枠の固定は外れ、王太子の綺麗な目が刺すように鋭くマルティンに向けられた。 「え、いえ。殿下が体で遮られたではありませんか。色ぐらいはわかりましたが」 「そうか」  ヴェルターの声はいつもの穏やかなものに変わり、視線もまた窓枠へと戻っていった。マルティンは早くなった鼓動を落ち着けるように息を整えた。何だっていうのだ。
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