(補佐官、苦悩させられる)

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「オリブリュス公爵令嬢のドレスがどうかなさいましたか」 「ああ、あれをデザインしたのがマダム・シュナイダーなのだが。あのドレスはいささか不備があるのではないか」  ヴェルターは小さく「忌々しい」と吐き捨てた。 「そうでしょうか」  マルティンは普段は感情を表に出さない王太子の態度に珍しいものを見る気持ちだった。 「肌の露出……が、多くないだろうか」 「そうでしょうか。最近の流行は襟ぐりが大きく開いたものですが、見たところ……令嬢のドレスは、」  あまり開いていなかった。袖も手首まで覆われて、と話しながら思い出す。 「見たところ、だと!? 」  マルティンは王太子の剣幕にひっと肩を跳ねさせたが、慌てて訂正する。 「顔をそちらに向ければ自然に目に入る範囲でございます」 「……そうか」  マルティンはふうふう息を吐いていたが、ヴェルターの視線が窓枠に固定されたのを確認するとヴェルターの意見を聞くことにした。 「殿下は令嬢をご覧になってどう思われましたか」  ヴェルターはうん、と咳払いして、そこからは随分と饒舌になった。 「あのような姿で馬車を下りて宮庭を歩くなどと危険だとは思わないのだろうか。いや、この豊かで平和なフリデン王国でことさら治安の良い首都ルーイヒにある宮殿ほど安全なところはない。ないがな、あのような姿では、んんんん。貴婦人に免疫のない若い男なんかは、惑わされるのではないか。いや、免疫などあったとしてもリティの前では無意味、つまり、私はリティの身だけを心配しているのではなく、懸想する輩も少なくないのではと思う。リティにはすでに婚約者がいるのだし、無駄な横恋慕、いや、そんな反逆を犯す輩はいないだろうが、リティアを見てしまった男には私が同情することになるかもしれないと危惧したのだ。あのような姿は、罪深い。そうは思わないか」
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