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王国で屈指の頭脳を持つマルティンでも何を言っているのかわからなかった。何度“あのような姿”と言っただろうか。……3回。とマルティンは頭の中で数えた。
「つまり、殿下はリティア嬢のドレス姿は」
「……素晴らしかった」
ヴェルターは感嘆の言葉を述べた。窓枠に視線を固定してるがゆえにマルティンに表情は見えなかったが、恍惚としているに違いない声だった。
「ええ、ではマダム・シュナイダーの処遇については意見を相殺致しまして現状維持という事でいかがでしょうか」
「そうか。では、君の意見を尊重することにしよう」
「はい。では、私はこれで失礼しても? 」
「ああ」
「では」
「マルティン」
「は?」
マルティンはドアにかけた手を置いてヴェルターへ顔を向けた。
「今日は、比較的穏やかな天気だな」
「……え、ええ」
マルティンは執務室から出ると首を傾げた。廊下の窓もガタガタと揺れ、窓ガラスに雨粒が叩きつけられる音が聞こえた。……穏やかな天気とは?
マルティンは頭に手をやり自身の癖っ毛がいつもにも増してあっちこっちへ散っているのを確認すると、
「止みそうにないけどな……」と呟いた。
速足で仕事に戻りながら、ヴェルターの言葉を分析した。
なるほど。リティア嬢のドレスは気に入ったのか。だが、それを他の男に見せたくないと。“若い男”? 殿下より? ご自分が惑わされたということか。ご自分の婚約者殿に?
「何をいまさら」
マルティンは理不尽に呼ばれたことで滞った職務に戻るため、髪を弾ませて廊下を急いだ。
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