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第5話 国境シュテンヘルムへ。(長旅の往路は平和です)
ヴェルターはしばらくはリティアのドレスについて頭を悩ませ、心を浮つかせたが、遠出の日が近づくにつれて浮ついた心がしずまっていった。
リティアからあれ以来連絡がなかったからだ。こちらからの書簡に返事があっただけだ。来月は会おうということと、帰れば連絡するといった趣旨の手紙で、それに対するリティアの返事は、色々と装飾はついていたものの、取り払うと簡潔に“わかりました”と書いてあっただけだった。リティアは会えなくなると言っても、なぜかなど聞き返すこともなかった。根ほり葉ほり聞くのは不敬だと思ったのかもしれないが、自分との仲なのに、と寂しく思う。
――リティアは……。辺境伯の屋敷へ向かう馬車に揺られてヴェルターはリティアのことを考えていた。
リティアはヴェルターが次回彼女へ訪問出来ないと伝えた時、ほっとしたように見えた。がっかりするだろうと、もしそうなら、慰めることまで考えていたのに。ヴェルターは自身の訪問時にリティアがどんな態度だったかを思い出すとほっとしたことにつじつまがあうと感じた。
「そうか、リティアにとっては俺との面会は楽しい時間では無かったということか」
小さな呟きは馬車の車輪の音でマルティンには聞こえなかったようで、ヴェルターは考え事に傾注出来た。
ヴェルターは会えないことをこうもすんなり受け入れられると、他のことも気にかかってくる。“二人並んで輪郭がぼんやりしちゃう” だとか“メリハリのある濃い容姿なら良かった”だとか。“私が遠慮するべきよね。あなたの隣に立つ女性はもっと”だとか。端々に滲むもの。
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