(そのころリティアは)

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(そのころリティアは)

 リティアはこの日も回想に耽っていた。ヴェルターの訪問がないものでしばらくは静かに過ごせそうだった。ミリーは主に取り仕切るメインイベントがなくなったことで気抜けしているのだろう。いい事づくめじゃないの、とは思うが口にするほど馬鹿ではなかった。  王太子宮、ヴェルターの執務室の窓から見える記念樹を見て帰らなかった。大きくなっただろうか。もうあれ以上は大きくはならないのだろうか。思えば幼い頃に二人で植えた記念樹、二人の意見が合わなくて二本植えることになった。どちらも自分の意見を譲らなかったのを覚えている。今ならヴェルターが譲ってくれるだろうか。リティアだって我がままを押し通したりしない。大人になったのだ。大人になったが、自由に意見を言えるあの時の方が、今の関係より良かったのかもしれない。そして、二本の記念樹はけして一つになれない相入れない二人の関係性を物語っているような気がした。  リティアには令嬢たちから多くのお茶会への招待状が届いていた。気乗りしないリティアは何とか体よく断れる理由がないかと模索していたが、良い案が浮かばず諦めた頃、リティアの母親が部屋を訪ねてきたのだった。  聞けば、母親の馬車の調子が悪いとのこと。街へ出るくらいなら紋章のないものや、華美でないもの、または貸し馬車を使うが、皇后からの招待を受けるとなればそうもいかない。そこで、リティアに同乗を頼みに来たのだ。 「リティア、王宮への行き道だけでも送ってくれないかしら」 「いいえ、お母さま。私、しばらく外出の予定はありませんから、私の馬車を使っていただいて結構ですわ」
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