(そのころリティアは)

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「仕方がないわよ、殿下もご公務でお忙しいでしょうし。あなたたちは小さなころからずっと会っていたから少し会えなくなったくらいで寂しいでしょうけど、もうすぐ成婚するとこの家で過ごすのはあとわずか。私たちにもあなたを側における貴重な時間なの、忘れないでいてね」  それから、 「殿下は公務が終わり次第すぐに会いに来て下さるわ。あなたが会いに行ってもいいじゃないの」と、目くばせした。 「あ、ええ」  思わず微妙な返事をしてしまい母親は眉を寄せた。 「殿下、すぐにお帰りにならないの? 」 「え、ええ。おそらく」 「……どちらに行かれたか聞いていないの? 」 「それが、非公式の事らしく、詳しくは……」 「……そう。そうなのね」  母親はしばらく顎に指を当てていたが、娘がいらぬ詮索をせずに済むようににっこりと笑った。 「心配ないわ、リティ。あなたも気分転換に街へ出かけたらどうかしら、お友達を誘って、新しく出来たカフェにでも行ってらっしゃい」 「はい、お母さま」  リティアは自身の母親がヴェルターの母親である王妃にいらぬことを言わないかと心配した。ややこしくしないでと願うばかりだ。  婚約破棄後の事を考えると、リティアがヴェルターを異性として慕っている中で破棄されたと思われると、相当な同情と心痛を周りに強いる。かといって気のない振りをするのも婚約者である今の状況としてよろしくは無い。この複雑な胸の内を打ち明けられる友人も身内も侍従もいない。どんな態度をとっていいかわからず、リティアはただその日が来るのを待つしかなかった。  孤独であった。
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