(シュテンヘルム辺境伯 )

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「私がレディならヴェルター殿下に想いを寄せていたでしょうね。私ごときが安易に近づけない高貴な方ですから、遠くから見つめているくらいでしょうけど。そうすれば、殿下の容姿にひとめぼれといったところでしょうか」  まさか、マルティンに容姿を褒められると予想だにしていなかったヴェルターも赤面したことで馬車の中に、照れあう妙な空気が流れた。 辺境伯の領土に入り、屋敷まで少しとなったところでヴェルターは口を開いた。 「マルティン、私に言い寄る女性たちが欲しいのは、私ではなく権力だ」 「……そんなことは」  無いとは言い切れないが、それだけではないだろうとマルティンは思う。 「私は能力も容姿も特段優れているわけではないからな。いいんだ、マルティン。これからもっと精進するつもりだ」  ヴェルターはいつもの柔らかな表情をきりりと引き締めて、マルティンにこれ以上のお世辞は必要ないというように笑ってみせたのだった。マルティンはなんて自己分析の出来ない人なんだと呆気に取られ、帰ったら王太子宮の姿見をしっかり磨くように侍女に言いつけなくてはと思った。ヴェルターは自分にだけ厳しかった。
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