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月に一度王太子が公爵家のリティアへ訪問することになっている。公式ではない分、堅苦しいものではないが、年々、特にここ最近はあまり良い雰囲気とは言えなかった。この訪問以外にもリティアは宮廷への立ち入りを許可されていたが、社交の場である庭園に顔を出す程度でヴェルターに謁見は求めていなかった。そう、この日は婚約者とはひと月ぶりの逢瀬――になるのだろうか。幼い頃はヴェルターとの時間が待ちきれないほど楽しいものであったのに。
ここでため息でもつこうものなら、すぐさまミリーが熱でも測りに駆け寄るだろうとリティアのため息は手水の中に消えて行った。ミリーの用意した心地よい水の温度に感心していると、絶妙なタイミングで渡されたやわらかなリネンで顔を拭った。
「さあさ、今日はお部屋で朝食を召し上がっていただきますからね。殿下とのティータイムまでに食べ過ぎてはいけませんから」
ミリー自ずから運んできた朝食は量は少ないながらもバランスも彩もよく、リティアはいつものことながら関心しきりだった。
リティアの控えめな朝食が終わるころには着替えも用意されていて、そのドレスもまたリティアが今日のドレスはそれがいいと伝えようとしていたものだった。……婚約破棄はいいけれど、ミリーが居なくなるのだけは困るわね。リティアはミリーのブラシに後ろに髪を引っ張られながらそんなことを思った。
◇ ◇ ◇ ◇
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