(シュテンヘルム辺境伯 )

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 ついに大声で言ったアデルモに同情するものはいなかった。容姿端麗、頭脳明晰、領主としての資質。愛情深い性格。扱いの難しい隣国との国境でうまく事が運んでいるのは彼の功績だ。誰もが避けたい難所を、このシュテンヘルムの領主を敢えて引き受けてくれたのだと知っていた。他に、ヴェルターは優れ過ぎた彼が王都を離れたのは、さらに自分が王位継承にかかわることが無いように、と熟慮してのことだろう。(はかりごと)などする人ではないのに。  ヴェルターは生まれたときからリティアという婚約者がいた。勿論政治的な意味合いが絡んでいるが、一番平和で信頼できる相手を選んだのがわかる。アデルモにも縁談はたくさんあったはずだ。金も権力も、人徳もある彼が結婚できないはずがないのだ。 「叔父上、結婚されたいのですね」 「ああ。ようやく落ち着いたからな」  ヴェルターの申し訳なさそうな視線にアデルモはヴェルターの頭をがしがしと撫でた。 「私の運命は受け入れている。それが王族の責任というものだ。だがな、ヴェルター。同情は禁物だ。俺は、自分の結婚に勿体ぶりすぎたんだ」 「勿体ぶるとは」  ヴェルターは初めて聞く叔父の結婚事情だった。 「貴族なんてのはどうせ政略結婚だ。それなら、誰と結婚するのが一番国にとって有益か。なんて考えてるうちにこんな辺鄙なとこへ来ちゃったもんだから、何不自由なく育った王都の令嬢をここに呼ぶのは忍びなくて、だな。王都にいるうちに愛を育めなかったという出遅れがもたらしたこの年まで独り身(結果)だ」 「なるほど。では、ようやく夫人を迎える準備が出来た、ということですね」
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