(シュテンヘルム辺境伯 )

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「ああ、気持ち上もだが、宮殿の仕上がりも素晴らしい。古い石造りの建物は、寒い季節はいくら暖炉に薪をくべようと底冷えがひどくてな、山脈も近いし、湿地もあるからかナメクジが……這い出てくる。ご婦人の好む環境ではなかったからな」  アデルモは満足そうに微笑んだ。わざわざ来賓を引き連れて寝室までみせるくらいだ。気に入っているのだろう。 「では、良い縁談があるのですか」 「ない」  すっと笑みの引いた顔でアデルモは言い切った。 「では、想う令嬢がいらっしゃるのですか」 「いない」  こちらの返答も早かった。どう返したものかわからずにいると、アデルモはふっと眉を下げた。 「いやな、正直縁談が無いわけじゃない。ところが貴族の、相手を望む未婚令嬢とくれば、ヴェルター、お前ほどの年の子になるんだ。さすがに甥っ子と同い年の令嬢はなぁ。こんなおっさんじゃ気後れしてしまう」  自由そうに見えるアデルモは女性に対しては謙虚なところがあるのだろうか。確かに今結婚相手を探すのに躍起になっているのは成人前後の令嬢だろう。だが、 「叔父上もお若いのですから」  ヴェルターがそう言うとアデルモは片方の口角を上げて不敵に笑った。 「うむ。今や俺は政治的選択がそう重要で無くなってな。ある意味気楽になってよかったと思っている。自分の趣味趣向でああでもないこうでもないと欲を出すとな、かえってモテなくなってしまった」 「つまり、叔父上、高望みしすぎた、ということですか」  高望みしても良い人なのだが、とヴェルターは首を傾げる。
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