(紅の女王)

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「そうか。ならいい。私はお前の幸せを祈ってる。聞き分けが良いのもお兄ちゃんとしては心配なのだ」 「大丈夫です。大丈夫ですよ、僕とリティアは」  ヴェルターは自分に言い聞かせるように、半ば懇願するようにその言葉を言った。 「そうか、それならいいんだ」  アデルモは理解ある大人のように頷いた。  しばし、静かな空気が流れたが 「まぁ、俺に男女のことはわからん。だが寝所のことなら聞いてくれ」  と言ってヴェルターに睨まれたのだった。  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇  隣国の王女アン=ソフィ・ラゥルウント一行は驚くほど軽装でやってきた。女王を入れて僅か数人だ。武器を持つ者はたった一人しかいない。あとは侍従だ。  鮮やかな紅い髪、意思の強そうなきゅっと上がった目じり。髪と同じ色の長い睫毛に縁どられた瞳は初めて見る美しい宝石のような深紫。その場にいた誰もが息をのんだのがわかった。ものすごい美人だ。 「紹介しよう、アン。私の甥であるヴェルターだ。横はマルティン。それから……」  と、こちらの騎士もすべて紹介が終わるとアデルモはヴェルターたちに挨拶の間も与えずに続けた。 「私の友人のアンだ。目を見張るほどの美人だろう? それからペール」 「よろしく」  アンだと紹介されたアン=ソフィ・ラゥルウントは、にこやかに微笑んだ。  ペールと呼ばれた男は大柄で唇から顎にかけて傷があった。この男、ペール=オロフは寡黙で近寄りがたい雰囲気だった。相手にこう出られてはこちらも大仰な挨拶は出来ず、ヴェルターは彼女の手を取るべきか思い悩み、一歩進んだ時だった。ぞわり、身の毛だつほどの殺気に、騎士たちは剣に手を掛けた。アンの制止が無ければ誰かは剣を抜いていただろう。
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