(紅の女王)

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「ペール、止めてちょうだい。ごめんなさいね。あなた方があまりに、ふふ、精鋭揃いなものだから。殺気立ってしまったようね」  相当の手練れであることがわかった。だからこそ剣を持つのはペール一人だけなのだろう。 「ヴェルター様。」  アンのいきなりの本題に、ヴェルターはごくり、喉を鳴らした。が、すぐに拍子抜けすることになった。 「王都、ルーイヒを見せていただきたいのです。そこで、王都育ちのあなたに案内をお願いできないかと思いまして」  要求事態は簡単なものである。ただ、わざわざ直接王太子であるヴェルターに頼むという事は別の意図もあるのだろうか。あまり、深読みが相手に伝わってはまずいとヴェルターは快諾をした。 「ええ。勿論です。ですが、それでしたら国賓として正式にご招待いたしますが」 「国賓でしたら自由がきかないでしょう? 」 「自由、ですか? 」 「そう。例えば、勉強の時間なんかでも親が見に来るってわかってたら子供はいい子にしているものでしょう? 」 「なるほど。ありのままの姿が見たいということですね」 「そういうこと。ああ、でもあなたの容姿は目立つわね」  ヴェルターは一目で王族だとわかる外見をしている。それを差し引いても浸透した気品ある立ち居振る舞いで平凡な人間には見えないだろう。だが、アンほどではないだろうとヴェルターは複雑な心境だった。 「瞳の色は向かい合わない限りそこまで目立たないわ。問題は髪ね。フードで隠せるにしても限界があるわね。色、変えましょうか。目立たない色ってブラウンかしら」 「黒……」  ヴェルターは無意識にそう言っていた。アンが、はて、と首を傾げてヴェルターを見つめた。……黒は比較的珍しい色だった。
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