(紅の女王)

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「なるほど。わが国の教育は基礎的なもの。本来貴族の子供なら家庭教師をつけて学ぶ事柄です。だが、金銭的に余裕のない平民では難しいので、身分に分け隔てなく教育を受けられるアカデミーを設立しました。文字を読む、書く。識字率の向上。商売をするのに必要な計算、それに子供が飢えることのない食事の提供。成長期の飢えは人間性にも影響します。この教育方法は、貴族や平民相互にメリットもあって。一つは、貴族にとって、個別に家庭教師をつけなくていいということ。彼ら貴族も平民もですが、王室と同じ講師から学べるという平等性。貴族は王立アカデミーに子供を通わせることで王政に忠義立てする姿勢を示せる。子供としては他人と競うことで自分の確立、他者との関わりを学べる。平民は自分の時世にどんな人間が領主になるのか。貴族側は平民と直接関わることで数多くいる“平民”ではなく血の通った人間であることがわかる。お互いの顔を知っているといことはそういう事です。貴族にとって基礎教育を教える講師を探すのはそう難しい事ではありません。難しい知識ではありませんからね。しかし、家庭教師ではないアカデミーの講師は雇い主の貴族におべっかを使うことなく公平にジャッジが出来る。おのずと優秀な者がわかってきます。貴族だから優れているというわけじゃないことを。アカデミーを出てからの高等教育は今のところ本人の希望と推薦です。そこからは専門の知識を持つ者を講師にしなければならない。そうなると、探すのは至難の業です。見つけても、彼らの本業は研究ですから受けてもらえるかわかりませんからね。だが、優秀な者であれば彼らも教えることを厭わないしょうし、優秀な者には投資したい貴族も多くいるでしょう」 「つまり、基礎のみをアカデミーで学ぶ。なぜなら帝王学のようなものは満遍なく教えても意味がないということです。あと能力があれば平民でも世襲以外は可能性がある」  マルティンが付け加えるとヴェルターは苦く笑った。
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