(帰宮)

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「ヴェルター様、先ほどのリティア嬢の件ですが、侍従に手紙を言付けようにもいつもの馬車庫に停めていないようで。……確かにいらっしゃっていたはずなので、少々お時間いただいて馬車の通行を管理している者に確認を……」  ヴェルターはエアンの言葉をそこで遮った。 「急ぎではないのだから、構わない。今日は王太子宮ではない所へ向かったのだろう。構わないさ、私もまだ旅の疲れも取れていない。また改めるとしよう」 「ええ、承知いたしました」  いくら待ってもこの日はリティアが自分の執務室に来ることはないだろう。そう開き直ると待つ必要もなく、いくらか気持ちが楽になった。リティアの馬車がどこに停められているか、などと聞きたくは無かった。  ヴェルターはそこから考えるのをやめた。考えたところで良くない思考に囚われるのは分かっていた。何も考えたくなかった。それなのに、感情が口を突いた。 「ここまで来て、この部屋に立ち寄ることはそんなに面倒なことなのか」  この宮殿に来て自分を思い出さないことがあるだろうか。ヴェルターは不思議でしょうがなかった。リティアの行動に疑問を持つ、それは自分の気持ちとリティアの気持ちに隔たりがあるということをヴェルターは感づいていた。同じ気持ちではないということだ。うっすらとしたものが日々濃くなっていく。  ふ、とヴェルターの脳裏にアン女王の笑顔が浮かんだ。婚姻か。王族に生まれ、結婚に夢を持つなど、いつからこんな馬鹿げたことを考える様になったのだろうか。アンは、結婚は想い合った人と、と提案してきた。ヴェルターが一番重要としていないもので、かつ期待してきたものだった。想い合った人と、か。想い合うといことは、向こうからも想われなければならないのか。ヴェルターは当たり前のことに自虐的な笑みを浮かべた。
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