第6話 真のヒロイン、悪女とは……。

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「いえ、今日中に急ぎの物を終わらせておけば数日休暇をいただける予定です」 「そうでしたか」  はた、と目が合うとマルティンは不自然でない程度に目を逸らした。リティアを己の首が飛ぶのではとヴェルターを恐れた防衛本能だった。リティアはマルティンの態度は無礼にならないためかとこの場は流した。 「遠征はいかがでしたか? 」  リティアに尋ねられ、マルティンはまず確認する。 「この度の遠征の詳細は殿下からお聞きになりましたか? 」 「ええ、シュテンヘルムの叔父様への訪問と、それから隣国ラゥルウントの王にお会いすると。極秘ではないと聞いておりますが」  マルティンは辺境伯を叔父様と呼んだリティアに少し口元を緩めた。 「そのとおりです。このあたりに比べればまだまだですがシュテンヘルムも辺境伯の統治により暮らしやすい街になっています。季節によってはあちらの方が過ごしやすいかもしれませんね」  リティアはマルティンの表情から、楽しい旅だったのだと推測した。 「殿下も叔父様にお会いできて嬉しかったでしょうね。長旅の馬車は退屈ではなかったですか? 」  マルティンは、馬車の中でヴェルターと互いに気遣い、互いに褒め合い妙な空気になったことを思い出し、一瞬返事に詰まった。 「……あ、ええ。とても、有意義な旅、でした。うほん」  マルティンはこの場を早く切り抜けることにしたが、リティアはマルティンに次の質問をした。 「アン女王はどんな方でしたか」 「……あー、ええ。噂と違ってとても聡明で、この国では見ない深紅の髪と、深い紫の瞳。目を見張るほど美しい方でした。勿論殿下も美しいので、あ。いえ。不安になることは何もなくすべて順調でございました」    ラゥルウントは交流はあるとはいえまだ謎の多い国で、ましてやリティアに入って来るアンの情報はあの噂話だけだった。だが、それは関わりのないリティアにはさして有意では無かった。ただ、他意なく単純に聞いただけだった。なのに、マルティンの受け答えは不自然でリティアは何かが胸にひっかかった。
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