第6話 真のヒロイン、悪女とは……。

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「そうですか。確かに、私も殿下ほど美しい方は見たことがありませんので、きっとアン女王はよほど素晴らしい方だったのでしょうね」 「ええ、殿下からまたお話があると思います」 「では、補佐官様、お疲れのところ足止めして申し訳なかったですわ」 「いえ、お会いできて嬉しかったです。では」  マルティンは、急ぎ足で進みながら、自分がリティアに対してうまくやれなかったことを責めていた。美しいリティアの前で他の女性を褒める失態に。あの場で付け足して褒めるなら殿下ではなくリティアであったと。あまり自分から話すのもどうかと憚った結果だった。あと、リティアと話すとヴェルターの気を損ねるのではないかという不安から早く切り上げたかったのだ。 「はぁ、女性との会話は苦手だ」マルティンは人知れず舌打ちした。  リティアは、しばらくはマルティンの後ろ姿を追っていたが、マルティンの歯切れの悪さになぜかとその場で思索した。 「リティア様、いかがされましたか? 」  侍女に声を掛けられるまで気づかず、もう少しでわかりそうだったのにと、不満に思ったが侍女に悪気があるはずもなく店に入ることにした。無理に話しかけてこない侍女をいいことにリティアは店に入った後も考えをまとめるために時間を使った。 「……まさか」  リティアの声は近くにいる侍女さえ聞き逃すほど小さかった。  まさか。アン女王は未だにベールに包まれた存在だ。だが、一国の女王であり、悪名高い、絶世の美女。噂と違った聡明な女性。こんな好条件が他にあるだろうか。紅茶も飲んでいないのにリティアの喉がごくりと動いた。
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