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いつからだろうか、探さなければ会話がなくなってしまったのは。
リティアはカップに口づけるヴェルターを盗み見る。とんでもない美男子だ。この国は、リティアの知る限る従事や庭師、平民でさえ容姿の整った者は多い。お国柄だろうが、その中でもヴェルターの光を跳ね返すまばゆい容姿は珍しく、抜きんでたものであった。一目で王族の血縁かとわかる高貴な髪と瞳の色。
簡単な近況報告と、出されたお茶や磁器に意見を言い合い、それが終わるとまた沈黙の中、お茶をすする。
会話を探すのはヴェルターだけでなくリティアもだった。先ほど、ドレスを褒められた時に自分は婚約者を褒めなかったことを思い出し、良い会話を見つけたとばかりに口を開いた。
「今日は一段と素敵ね、ヴェル。窓の側に立ってたでしょう? 光を受けて真っ白で妖精と見まがうくらいだったわ」
「はは、そう? 君だって、春の知らせが入って来たのかと思ったよ」
ヴェルターは微笑んだが、この会話はあまり好ましくなかったのかふいっとリティアから視線を逸らしてしまった。
まただ、とリティアは思った。ヴェルターはリティアから視線を逸らすことが多くなったように感じる。目の前の王太子は感情を表に出さないことに長けていた。それでも気づくのはリティアが昔の彼を知っているからだろう。
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