第6話 真のヒロイン、悪女とは……。

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 それからリティアはそれを証明するように街や他の令嬢のお茶会に出かけたが、目ぼしい男性に出会うことが無かった。宮廷に行ってもそうだろう。リティアは自分のここでの役割を終えつつあることを思い知ることになった。これからはもっと、顕著に現れるのではないかと思う。  ヴェルターからはアン女王が王都にお忍びで来る際に同行してくれと頼まれた。リティアは自分が会いたいか会いたくないかの感情は関係なく会うことになりそうだった。自らの目で、ヴェルターとアン女王が並ぶのを見ることになるのだ。  ◇ ◇ ◇ ◇    しばらくしてリティアは自身の母親、公爵夫人が宮廷に参上する際に同行することにした。なぜかじっとしていられなかったのだ。母親は娘がすすんで社交の場に顔を出すことにようやく王太子妃の自覚が戻って来たのかと喜んだ。曖昧に記憶が蘇ったリティアの変化に母親も気が付いていたのだろう。長く王太子妃教育を受けてきたのにヴェルターと違いこうも態度に出てしまうものかと自分を恥じた。  母の補助の合間、リティアは外の空気を吸いに庭園に出た。木陰で休みながら人の流れを見ていた。指先にぴりりと痛みを感じて目を落とした。指先が荒れていた。ここ最近、考え事に没頭し手入れを怠った結果だ。リティアは自身の指先をこすり合わせた。一日たりとも怠ったことのない努力はすべて王太子妃になるため。 「気が抜けちゃったのかな」  リティアは自身の手が手入れを怠るとすぐに荒れるほど弱い事を初めて知った。手入れ用のオイルを持ってくればよかったと思っていた時だった。誰かがすぐ目の前を通り過ぎ、身をすくめた。 「失礼、そこにいらっしゃるとは思わなくて」  その人は礼儀正しく謝罪し、さっと目視してリティアが無事であるかを確かめた。そして、自分がぶつかりそうになったのがリティアであったのがわかると表情をほんの少しだけ和らげた。
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