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「あなたでしたか、オリブリュス公爵令嬢」
「ええ、シュベリー卿」
リティアが笑顔を向けるとウォルフリック・シュベリーは爽やかに笑った。
「申し訳ない。あなたに怪我を負わせたとなると殿下から決闘を申し込まれるところでした」
リティアはウォルフリックがこんな冗談を言うタイプだとは思わず、きょとんと見つめてしまった。それを気まずく思ったのか、ウォルフリックは微かに頬を染めた。
「冗談です」
「ふ、ふふ。わかっていますわ」
リティアが笑うとウォルフリックもつられて笑った。
「すみません。普段はこんなことはないのですが、今日は宮廷だというのに考え事をしてしまって。不徳の致すところです」
「いえ、大丈夫です。本当に」
「……やはり、怪我をされたのでは? 」
リティアのすり合わされた指先を見てウォルフリックは言った。荒れたことのない指先の感触が不思議でつい擦り合わせていたらしい。
「あ、違うのです。指先が荒れてしまって。気になって触っていただけで。帰ったらオイルで手入れを……」
じいっと手に視線を落とされリティアの言葉は羞恥から尻すぼみになった。
「そうでしたか。とても綺麗な手をしてらっしゃいますが」
「いえ、近くで見ると爪の際あたりにささくれが出来ているのと手のひら側も乾燥していて……。あ、すみません、シュベリー卿、お急ぎだったのでは? 引き留めてしまいました」
「いえ、ちょうど、交代したところで。だからこそ考え事も許されるのですが」
ウォルフリックはここで周囲を気遣うように見回した。リティアに何か言いたそうに目を泳がせ、リティアのように指先をいじった。
「シュベリー卿、何か言いたいことがあるのでは? 」
リティアが尋ねるとウォルフリックは思い切ったように口を開いた。
「私には、異性の友人がいないもので、誰に聞いていいわからず。不躾ながらお尋ねしても良いでしょうか」
リティアは驚いて、ウォルフリックの瞳を覗いた。ヴェルターとは違う、深い色だった。
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