第6話 真のヒロイン、悪女とは……。

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「複雑な事情があったわけではなく」  ウォルフリックはここで言葉を切るとリティアの耳に口を寄せた。 「あまり格好いい理由ではありません。父の多忙の中、母は慣れない異国での生活でホームシックになったのです。そして、療養のために実家へ帰ったのですが、お恥ずかしながら、甘えん坊だった私は母に着いて行った、ということです」 「“甘えん坊”! 今の凛々しいシュベリー卿からは想像出来な……」  リティアは無意識に気軽な物言いになっていることに気づき、はっと口に手を当てた。それと、“凛々しい”など本人に向かって軽薄にも口にしてしまった。 「はは、いえ。そう言っていただいて光栄です」  彼の気さくな態度にリティアも少し心を許した。 「もしかして、異性の友人が欲しいのですか」  リティアが尋ねると、ウォルフリックは緩く首を振った。 「私には必要ありません。以前はアカデミー出身の令息や令嬢が気安く話すのを見て欲しいと思ったこともありますが、私には、その……令嬢たちは普通に接しては下さらなくて」 「どういうことでしょうか」  リティアは首を傾げると、ウォルフリックはため息交じりに答えた。 「私の前で令嬢たちはみな、詩人になるのです」 「……詩人? 宮廷詩人ですか? 」 「いえ、そうではなく。吟遊詩人、いや、哀歌詩人に近いかもしれません」  言い辛そうなウォルフリックの様子から、リティアは悟った。女性と接することの少ない異国の血が入った騎士。幼少期は異国で過ごしたこともあり社交界での情報も少ないミステリアスな男性。このしっとりと落ち着いた色気、容姿。気さくに話しかけられない分、令嬢たちの羨望が募ったのだろう。
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