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「すみません、レディ。殿下に会いに来られたところだったのでは? 私の方こそ引き留めてしまいました」
「いえ、今日は母の手伝いで参りましたので、殿下には会う予定はしておりません」
「そう、でしたか……」
ウォルフリックは何か言いたそうだった。そうだ、ずっと何か言いたそうで、リティアは予測する。
「もしかして、手入れ用のオイルが気になりますか? 荒れていては剣を持つ時に痛みますものね。ですが、剣が滑る……」
「違うのです、リティア嬢。私、ではなく……」
ウォルフリックの声は今までで一番小さかった。
「まぁ、シュベリー卿! まさか、恋人へのプレゼントをお考えですか!? 」
リティアの声は今までで一番大きかった。つまり、令嬢にあるまじき大声。慌てたのはリティア以上にウォルフリックだった。漆黒の瞳は揺れ、端正な顔は真っ赤に染まった。
「違う! 恋人などではない。私の、片思いです! 」
リティアは、誠実にも否定するのは“恋人”の部分で、恋人でなく片思いだと伝えるウォルフリックにますます好感を抱いた。
「まあああ、シュベリー卿! 」
「令嬢、お願いです。お願いですからそのからかうような顔をやめていただいて。それから、このことは他言無用です」
リティアは高揚から頬を染めて、こくこくと頷いた。
「彼女が、指先の荒れを気にしていたものですから」
少しばかり落ち着いたらしいウォルフリックは声を落としてそう言った。リティアはまたこくこくと頷いた。
「それで、良いものがあるのなら教えていただこうと不躾にも引き留めてしまった次第」
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