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「やあ、リティ。機嫌がよさそうだね。良い事でもあった? 」
急な訪問にマルティン・アルデモートは複雑そうな表情でヴェルターへ視線を向けたが、ヴェルターはいつも通り柔らかな笑顔でリティアを迎えてくれた。そして、マルティンは静かに部屋を出て行った。リティアはヴェルターはおそらくリティアの訪問を快く思っていない態度をマルティンに取ったのだろう。マルティンの表情はそんなヴェルターを気遣う視線に見えた。
「ごめんなさいヴェルター。あなたの顔を見たらすぐに帰るつもりで」
ウォルフリックの恋心に浮かれていたリティアはさっと現実に戻った。
「ああ。オリブリュス公爵夫人に僕のところに顔を出すように言われた? 」
ヴェルターは相変わらずの笑顔だったが、声にとげがあるように感じて、リティアは俯いた。
「……そ、そんなこと。忙しいのに申し訳なかったわ。直ぐに……」
「リティ、僕もちょうど君に話があったんだ」
そういうヴェルターの声はいつもの優しいもので、リティアはほっと胸を撫でおろした。ヴェルターは、リティアに腰を下ろすように勧めた。直ぐに目の前にはリティアの好みに添ったお茶とお菓子が用意された。
「アン、女王。隣国ラゥルウントの王が非公式に僕に頼み事をしてきたことは話したね」
「ええ」
リティアは頷いた。前回のヴェルターの訪問も非公式だった。それより、ヴェルターは一瞬のアン女王を“アン”と呼び“女王”を付け加えたようだった。ヴェルターは隣国ラゥルウントの王とそんなに親しくなったのだろうか。そう思うとリティアの胸がどきりと不穏に痛んだ。
「ぜひ、君にも会いたいと言われて、先に君の意見を聞かないと。どうかな? 」
「ええ、もちろん。喜んで」
リティアがそう言うとヴェルターはほっと安堵の表情を見せた。
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