第6話 真のヒロイン、悪女とは……。

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「どうかした? リティ。街に馴染む華美でない服はこちらで用意する。君は、ただこの祭りを楽しむといい」 「ええ。ありがとう。子供の頃に戻ったみたいね、ヴェル」 「ああ、懐かしいね。あの頃は……」 「ごめんなさい、ヴェル。今日は母を待たせているの。もう行くわね」 「あ、ああ。送ろう、リティ」  ここで断ってもヴェルターは送ってくれるのだろう。それがわかっているリティアは素直に頷いた。差し出された腕にそっと触れる。慣れた仕草は、当たり前のように与えられた自分の居場所だ。だが、あとどのくらい触れることが許されるのだろうか。いつの間にか見上げるようになったヴェルターの体躯はリティアのものよりずっとしっかりしている。リティアが自分を見上げたことに気づいたヴェルターはごく自然に微笑みを返した。リティアはさっきよりずっと胸が痛むのを感じた。  馬車に着くとヴェルターはオリブリュス公爵夫人と形式ばった挨拶もそこそこに親し気に話し込んだ。リティアはそれを複雑な心境で見ていた。ヴェルターと自分が結婚しないとなると母にはとんでもない心労を掛けてしまうかもしれない。対外的に問題はなくとも、母はとても気を病むだろう。リティアはヴェルターとの婚約破棄に平気でいなければならなかった。自分も恋をして、良い相手を見つけて……。いや、平気なふりではなく、平気だったはずだ。むしろ、王太子妃は負担だと思っていたはずだった。  リティアは浅い呼吸を繰り返し、落ち着かない胸を強く握ったこぶしで抑えた。 「では、リティ。またすぐに」
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