第7話 疑似恋愛

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第7話 疑似恋愛

 リティアは現実逃避することにした。自分の心の機微を掘り下げたその先に何があるかを考えたくなかったのだ。リティアが考えようが、考えまいが結果は変わらないのだと気づいたからだ。  こんな日も、どんな日も休むことなく一日一日を王太子妃になる日は近づいている、と周りは認識し、リティアへの教育を怠らなかった。  ようやく夕方になって夕食までのひと時、リティアは侍女が持って来た瓶に入ったオイルを眺めていた。ウォルフリックの事を考えるのは楽しかった。彼が想いを寄せる令嬢はどんな人だろうか。想像してはその想像上の令嬢に合った香りのオイルを鼻に近づけた。そして、顔を真っ赤にしたウォルフリックを思い出しては、自分も恋をしたかのような胸のときめきを感じ、疑似恋愛に身を投じた。当事者でない恋は清らかで楽しいものだった。  リティアは自身の感情をウォルフリックの恋心で覆うために、少しばかりウォルフリックのことを周りの人に聞いてみた。誰に聞いても彼の評判は良く、リティアはきっとウォルフリックの想い人も彼に悪い印象は無いだろうと確信した。  ◇ ◇ ◇ ◇  後日、リティアはケースにありったけのオイル瓶を詰めて宮殿へ向かった。勿論、ウォルフリックに見せるためだ。    秘密を共有した友人関係は一気に距離を縮めた。こうして、ウォルフリックとは何度か会う関係になり、いつの間にかウォルフリックとリティアは名前で呼び合うほど気安くなっていった。 「ウォル、いい加減にあなたの想い人を教えてくれない? 」 「……う、リティア。そうは言っても恥ずかしくて」
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