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「私は使ったことがないのに、人に、ましてや意中の人に勧めることは出来ないよ」
リティアは、“真面目か”と言いたくなるのをぐっと吞み込んだ。そうだ、と自分の持ってきたオイル瓶の蓋を開けると、ウォルフリックに手を出すように言った。ウォルフリックの騎士らしい手の平に数滴たらすと自身も手に取った。
ウォルフリックは手を受けたもののどうしていいかわからないといった様子で、手に擦り込むリティアをじっと見ていた。
「ウォル? オイルが垂れてしまうわよ」
「え、ああ。うわ、ど、思ったよりベタベタぬるぬるする」
「肌馴染みがいいオイルだからしばらく擦り込んでたらしっとりしてくるから」
「こう? 」
手を擦り合わすウォルフリックが小動物のようでリティアは吹き出す。
「ええ。指の間も、この水かきのところね。爪の生え際も」
「リティア、やはり少し量が多かったのでは? 」
なかなか肌に馴染まないようでウォルフリックは真剣に刷り込んでいた。
「ふふふ、ウォル、そんなに怖い顔で刷り込まなくても。多かったなら私に分けて。あら、このあたりもう少し伸ばした方がいいんじゃないかしら」
「ああ、申し訳ない」
リティアは何も考えずにウォルフリックの手を取り、余ったオイルを引き受け、ウォルフリックの塗り残した部分にオイルを自らの手で擦りこんだ。ウォルフリックもリティアのその行動に疑問を持たずにされるがままであった。が、数秒後、はた、と目を合わせた二人は慌てて背を向けた。
「ごめんなさい。はしたないことを」
「いや、こちらこそ」
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