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二人はそれぞれに息を整えると向きなおった。
「ほんとうにごめんなさい。べルティーナ嬢に見られたら誤解されるところだったわ」
リティアはきょろきょろ周りを見渡した。幸い、近くに人はいないようだった。
「いや、私こそ。それこそ冗談でなく殿下に決闘を申し込まれるところだ」
ウォルフリックの言葉に、今度はリティアも笑えなかった。リティアは誰にも見られていなくてよかった、と自分の意識の低さを恥じ、人の恋路に浮かれているからだと自分を戒めた。が、誰にも見られていないわけではなかったらしい。
「君たち、ここで逢引きするのはお勧めしないなぁ」
後ろから声を掛けられて、リティアは飛び上がり、ウォルフリックの顔はさっと青ざめた。
「ふ、ははは! そんなに驚かなくても」
「レオン! 」
声の主はリティアには笑顔を、ウォルフリックには騎士同士の挨拶をした。
「誤解を招くような行動をして申し訳ないですが、フリューリング卿、私たちは……」
レオンは、わかっている、というようにウォルフリックの言葉を説明は必要ないと手で制止した。そして、ウォルフリックとリティアどちらも手を擦り合わしていることに気が付くと怪訝な目で二人を交互に見た。さすがにこれは説明が必要だ、とリティアは思った。
「手荒れのオイルをね、塗り過ぎちゃって……」
レオンはますます怪訝な目をしたが、二人の手を再び交互に見ると、大きな大きなため息を吐き、おおよそ納得したようだった。
「あー……俺も、ここが切れちゃって、剣持つ時に痛いんだ。良かったら塗っていただけませんか? 」
レオンはそう言ってリティアの方に手を差し出して来た。オイルはもうほとんど残っていなかったが、リティアは形ばかり塗った。
「では、こちらの手はシュベリー卿にお願いして」
レオンは反対の手をウォルフリックに差し出した。それをにこりともしないでやり遂げるのだから、奇妙な光景だった。
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