私、人妻なんですが…〘Ⅲ〙

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自分は、親に決められた結婚が嫌だとは一度も思ったことがなかった。中学生になってすぐに、正式に許嫁だと紹介された寿成は、高校生になったばかりで、3つ歳上というだけなのに、とても大人っぽく見えた。眼鏡をかけていているのにガリ勉風でもなく、とても理知的に見えたし、笑顔がすごく爽やかで、スラッとした容姿に格好良いと目を奪われた。それから、自分が高校卒業するまでの学生時代、婚約者として恋人として、お付き合いをしていた時、すごく幸せだった。結婚して夫婦生活を始めた時は、深く気持ちが繋がれたと更に幸せを噛み締めていたのだ。 お見合いなんて形式だけで、既に決められた相手と決められた様に付き合った末の結婚だったけれど、私は、きっと彼に、恋をして、その恋を育ててきたんだわ。そんなことに、今頃、気が付くなんて…。 あの子の綺麗な気持ちを、素直な想いを私は、どれだけ傷付けて来たんだろう…。 どうすれば、あの子と仲のよかった頃に戻れるんだろう…。 芙美は、思えば思うほど、胸が苦しくなる気持ちに潰されそうになっていた。 『取締役の役員が企業で一番偉いことは、小さな子供でも知ってるわ、でも、それが何なの? どんな仕事にも、ちゃんと必要性や意味があるのに、仕事に優劣も上下もないのに、いつでもお父さんは、自分の仕事が一番優れてるとか、偉いんだって顔をする。私の仕事だけじゃない。私が派遣された会社のこと、何もわかってないのに、会社も仕事の仲間も下に見る。 だけど、そんなお父さんや二階堂の名前なんて、地元じゃ凄いのかもしれないけど、世界からみたら砂粒と変わらないわよ! お父さんももっと凄い人達に、蔑まれたら目が覚めるんじゃないの。』 娘に、あんな風に思われてるなんて、あの人が知ったらどんな顔するんだろう…。 「寿成さんの気持ちがわからない訳じゃないけど、私には、もう珠香を連れ戻す気力も力もないわ。」 さっきよりも大きな溜め息をついた芙美は、疲れ切った顔をしていた。 「奥様、珈琲お淹れしてきましたよ。お疲れのご様子なので、甘いカフェオレにしておきました。」 「ありがとう和美さん。」 一礼して去ろうとする和美に芙美は、声を掛けた。 「ねぇ、和美さん。」 「はい、何でしょう、奥様。」 「しばらく、私の話し相手してくれないかしら。仕事があるなら、無理しなくていいから。」
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