私、人妻なんですが…〘Ⅲ〙

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和美(かずみ)さん、珈琲をお願い。」 「かしこまりました、奥様。」 芙美は、家政婦の和美に珈琲を頼んでから、サンルームの椅子に腰掛けた。 寿成が自分に向けた言葉を思い出しながら、溜め息をつく。ここ数週間、自分の生きてきた道をふっと振り返ったとき、これでよかったのかと後悔する気持ちが湧き上がってきていた。 「今になって、やっと珠香の気持ちをわかった気がするわ。」 今思えば、私は、自分の恵まれた状況に満足しきっていたし、寿成が出来る人だから、彼に言われた通りにしていれば、何もかもが上手く回っていくと思っていたのだ、珠香に反旗を翻されるまでは…。 時代や考え方もあるのだろうけれど、私達の生き方だけが全てでないのだと、この頃は思う。 『お母さんの思う幸せと、私が思う幸せは違うんだよ。お父さんの立場もお母さんの立場も、私はわかる。だけど、本当に無理なの。 お父さんの跡を継ぎたいと思ったから、経営の勉強したいと言ったら、頭から、そんなものはやらなくていいと否定されて、言われた事だけやってれば間違いないから、そうしなさいと強制された。 お父さんが決めた、会ったこともない、顔も見たことない相手と結婚して、二階堂の名前を継げる子供を産めとか、時代錯誤もいいとこよ。 私に相応しい相手って何?どんな基準なの? そう言うのって、親が決めることなの? 私の結婚よ。私の人生のパートナーくらい、私が決めたいわ。それに、私だって、女の子なんだから、素敵な恋のひとつもしたいわよ。 大体、恋なんてするなって、私から、女の子らしい気持ちを最初に奪ったのはお母さんじゃない!』  あの子の言う事ももっともね。珠香は、今、私達の知らない誰かに、恋をしているのかもしれない。 私は、また、その恋を二階堂のためには、邪魔だと、あの子から取り上げなくてはならないのかしら…。
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