窓からあの人を探す

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恋愛小説や少女漫画なら、出会い頭にぶつかったとか、同じ場所で何度も出会ったとか、偶然が重なっていつしか…なんて展開になるのだろうけれど、私達はお互い、同僚に誘われて…いや、無理やり数合わせで合コンに引き摺って来られた同士だった。 その当時の私の派遣先は、誰でも知ってる有名な商社で、そこの総務のお姉様方に声を掛けられたのだ。 大手で働いてるお姉様方は、大抵、上から目線で派遣を見ていて、同じ仕事をしていても居心地悪い事がよくある。出来る仕事を押し付けてきたり、無理難題を言ってきたり、つまらない意地悪を沢山仕掛けてくる人もいる。けれど、私の派遣先は、とても良い会社だったらしく、そんな出来事にぶつかったことは一度もなかったし、耳にしたこともない。お姉様方は偉ぶったりしないし、自分の仕事はきちんとこなして、無茶振りなんてしてこない。 そんなお姉様方からお誘いを受けたのは、何度めだろうか。その度に私は断っていた。合コンのお誘いなんて、はっきり言って迷惑だったからだ。 私は総務の管理している資料を整理するために雇われていた。朝、出社したら、始業までに決められた清掃箇所を掃除する。その後は、始業から夕方の終業まで資料室に籠って仕事していればよかった。終われば、真っ直ぐアパートへ帰るルーティンで困ったことはない。 「アパートでひとりなんて寂しいんじゃないの?」 何度か言われたことがあるけれど、私にとっては、アパートの部屋は自由の象徴だった。高校卒業までは、実家暮らしだったのだが、その頃の私には自由なんてなかったに等しい。 今住んでいるアパートは、小さい部屋だけれど誰にも邪魔されない私の城だ。この中では、日がな一日、全裸で過ごせるくらい自分を開放できる場所だった。 本音を言えば、実家の親が年に何回か心配で様子を見に来るが、それさえも出来れば来て欲しくないくらいなのだ。 それに、ひとりなら集中出来る。派遣してもらう上で有益なスキルを着けるための勉強に一心不乱に取り組めた。部屋いっぱいに集めたものを広げて趣味に没頭しても誰も邪魔しない。本当に天国なのだ。   けれど、社会人としての付き合いと言うものを、すべて拒否できる訳では無い。嫌でも付き合わなくてはならないこともある。 「今回の合コン相手は国家公務員よ。お硬い職業でしょ。さあ、迷ってないで、たまにはこう言うイベントにも参加なさい。断る理由はないでしょ。たまには付き合いなさい。」 お姉様方は、有無を言わせてくれなかった。
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