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【11】強襲。
「じゃぁ瑠夏さまは陽咲ちゃんと一緒に……」
「そう。坊は名残惜しそうだったけどね」
放課後、ヒョウカちゃんと共に下校の時を迎えた。
「ヒョウカちゃんはこの後……」
さすがに家族の込み入った話に推し活するわけには行かないし……朝来くんも既に迎えの車で学校を後にしている。陽咲ちゃんのことは瑠夏さまに任せればいいと思えるくらい、瑠夏さまとの信頼関係は回復しているのだ。今はとにかくアゲハさんと話さなければいけないから。
「どうしよっか。カフェでも寄ってく?今日は長いなかったし」
「あぁー……そうだねぇ」
仕事だと早退してしまったのだ。坊さんも特に何も言ってなかったから……あれはきっと正規の統木か忍としての仕事なのだろう。
「氷華は寄り道禁止」
「はぅっ」
突然響いた声に振り向けば。
「あ、冬華さん……?」
「わぁ、相変わらず冬氷ちゃんはすごいねぇ。アタリだよ~~。俺たちよく間違われるんだけどー」
そこにいたのは紛れもなく霜華さんにそっくりな……冬華さんであった。つまりはヒョウカちゃんの一番上のお兄さん。
執事の格好をしていた霜華さんに比べて、冬華さんは少しばかりカジュアルなスーツである。
しかし……。
「な、ななな、何で冬華お兄ちゃんが……!?」
「霜華が別の仕事だからってさ。氷華のこと託されたんだぁ」
「何託してるのあん兄はっ!!」
「でも冬華さんなら優しそうだし……」
「……」
「ヒョウカちゃん?」
「どうしたのかなー?氷華」
にこにこにこぱー。
何だろうあの笑顔なのに圧を感じさせるそれは。
「冬華お兄ちゃんは普段優しいのに怒るとSになるのだ……っ!」
「え……っ、マジで?」
「あはははは――――、違うよ。ドSだよ」
しかもグレード上がったぁっ!?
「あと、長からの命もあるからね。冬氷ちゃんの下校のために俺も着いていくから。氷華も途中まで一緒に行こうか。いいこにしてればお兄ちゃん、少しはサービスしてあげる」
「ひゃ……ひゃいぃ……」
まぁヒョウカちゃんのおとがめが少なくなるなら良かったかなと思うのだけど。
……冬華さんが来たのは。椿鬼が心配してくれたってことだろうか。
「さて、帰るんでしょ?行こうか」
「……は、はい!そう言えば坊さんは……」
「坊は坊で帰るから大丈夫。坊にも護衛はついてるけど、坊自体も強いから」
そう言えば椿鬼もそう言ってたっけ。
「うぅ……冬華お兄ちゃんが一緒かぁ……」
氷華ちゃんは相変わらずびくびくしてたんだけど。
「買い食いして帰りたいよぉ」
「あぁ、いいかも!ヒョウカちゃん、何か買って行こうよ」
「え?霜華からおやつ禁止言い渡されたんじゃなかったの?」
「ひうっ」
そう言えばそうだった――――!
「あ、でも冬氷ちゃんだけなら食べても大丈夫だよ~~」
「そんな友だち裏切るみたいなことできるかぁいっ!!」
「うわぁぁんっ!冬氷ちゃあぁぁんっ!!」
わぁっ、Dカップハグ~~。
パシャっ
ん……?
「何撮ってるの?お兄ちゃん」
「これ長に送っておこうと思って。きっとウキウキだね。はい、送信と」
……??何で椿鬼がそれでウキウキに……?
「ふあぁぁぁぁっ!?ちょ、お兄ちゃんっ!?私殺されないよね!?長に殺されないよねえぇぇっ!?」
「氷華は反省できて偉いねぇ」
「うえぇぇんっ!やっぱりドSだこの兄ドSだあぁぁぁっ!!」
「ちょ……あの。何かいけないことをしてしまったんでしたら、私もヒョウカちゃんと一緒に謝りますから……!」
「……冬氷ちゃんも……?いや、むしろそれをしたら悪化する気が……」
悪化……?何故……?
――――――そう、首を傾げたその時だった。
「氷華!」
「はい、お兄ちゃん!冬氷ちゃんこっち!」
「うえぇっ!?」
いきなり冬華さんが鋭く叫んだかと思えば……ヒョウカちゃんが私の手首を引っ張る。
「ちょ……ヒョウカちゃん!?」
「冬氷ちゃんは後ろにいて!」
ヒョウカちゃんが叫んだ時だった。
ぶわりと押し寄せた風と共に、何かが空から翔んで……?
ガキンッ
ガンッ
何これ金属音!?まるで金属がぶつかるような音が響く。
そして気が付いた。
「こうも堂々と狙ってくるとはねっ」
ひえぇっ!?冬華さんが黒ずくめの明らかなニンジャっぽい連中の向けてくる刃物やクナイを弾き翔ばして、相手のニンジャごと、ぶっ飛ばしてたあぁぁっ!?
「え……これ何……っ!?てか誰っ!!と言うかよく見たら黒い迷彩服じゃないそれ意味あるの!?」
ぐ……本場のニンジャコスかと思いきや……コイツらもか……っ!
「気になるのそこなのぉっ!?」
「だってぇっ!」
『隙あり』
え……?風のような声が響く……?
「今のは……」
「え?」
きょとんとするヒョウカちゃんは気が付いていない?その時ヒョウカちゃんの目の前に……っ!
「危ない!!」
急いでヒョウカちゃんを突き飛ばすと、目の前に迫っていた目が見開かれる。
『何故気付いた……!』
あれ、こんなの前にもあった気が。
『だがお陰で手間が省けたよ……!』
黒い迷彩服ニンジャが、私に向けて刃を構える。
「冬氷ちゃん……!」
地に手をついたものの、素早く再び地を蹴ったヒョウカちゃんの手が伸びる。
でも……ごめん、ヒョウカちゃん。これ、間に合わないわ。
ビュンッ
鋭い刃が降ってくる。こう言うのがスローモーションで見えると言うのは……本当だったのだ。しかし、動けない……。
あ、私……終わるんだ……。
「ぐほぁっ!!?」
しかしその声と共に、刃が明後日の方向に飛んでいき、黒い迷彩服が遠ざかっていく……。
それと同時にふわりと身体を包むのは。
「ナメた真似しやがって」
「椿鬼!?どうして……!?」
「冬華から写メ届いた」
あ、さっきの?でも何でそれでここに……。
「おい氷華!あとで反省会覚悟しとけ!」
「ひぇーん、長ぁっ」
涙目の氷華ちゃんだが……。
「ヒョウカちゃん後ろ!」
ヒョウカちゃんの後ろに、また……っ!
「よそ見しない!」
瞬時に舞い降りた霜華さんがヒョウカちゃんの後ろに迫った黒い迷彩服を蹴り飛ばした……!
「ごめん長~~っ!でも助かったわ。霜華も~~」
へらへらとしながらも黒い迷彩服たちをぶん投げながらこちらにしゅたっと着地する冬華さん。
「ご苦労、これで全部のようだな……」
そう呟いた椿鬼だが。
「……?」
ふと後ろを見れば……迫っていた。
「つ……っ」
声を出そうとしたその時だった。
ドゴッ
「コイツでな」
後ろから迫っていた黒い迷彩服が、椿鬼の素早い裏拳によってぶっ飛ばされ、力なく倒れた。
「気付いてたの……」
「当然。こんな騙し合いはしょっちゅうなんだから、慣れてる。その分氷華あぁぁ?」
「ひぇーっ」
黒い迷彩服たちをぐるぐるに縛っていく霜華さんと冬華さんの傍らでビクンと肩を震わすヒョウカちゃん。
「ちょっと……ヒョウカちゃんだって危なかったんだから……」
「それを掴んで護衛対象を守るのが氷華の役目だ」
それは……私をってことよね……。
「対象に守られるなんざ、あっちゃならねぇんだよ。氷華も、今日のことは忘れんな」
「はい……申し訳ありません、長……」
ガックリと俯く氷華ちゃん。
「まぁまぁ、俺が長に写メ送ったお陰で何とかなったんだからさぁ。いいのいいの、今日のことを忘れずに鍛練積んでくれればお兄ちゃんはオッケーだよ~~。氷華はまだひよっこなんだから」
そう告げたのは、ぐるぐるお縛りタイムを終えた冬華さん。
「お兄ちゃん……」
「まぁ、特別に今日は買い食いは認めよう。おやつ抜きは明日からね」
そう告げた霜華さんに……。
「うわあぁぁんっ!お兄ちゃあぁぁぁぁんっ!!」
号泣するヒョウカちゃんだった。霜華さんも何だかんだでヒョウカちゃんのことは大切に思っているんだね。何か安心したかも……。
そして統木邸まで氷華ちゃんたち兄妹も見送ってくれて、私は椿鬼と離れに帰ってきたのだが。
「あの、椿鬼……先程のは」
「ん、中でな」
「わ、分かった……」
パタパタと椿鬼に続いて離れの中に足を踏み入れる。先程のは……私を狙ったってことで間違いないんだよね。頭隠の忍じゃぁないようだけど……どうして私を……。そして、誰が……。
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