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【10】これぞ青春よね。
最後に残された謎……それはもちろん……。
「あぁ、俺が海守にいた理由?一応坊が最近目をかけてる子だからね。統木の手の者として、探るのは当然。つてもいろいろ持ってるからね。期間限定のシークレットサービスってことで海守の当主に雇われたって設定で雇われてたところ。まぁ海守にとっても、お嬢さまを守れたから良かったんじゃないかな……?むぁこれで俺の任務は終了だから、また統木に戻るよ」
じゃぁもう潜入は終了と言うことで……戻ってくるのね。氷華ちゃんの……家にも。でも無事に瑠夏さまが坊さんとゴールインしたら再会しちゃうけど。
「待たせた」
そうこう話していれば、すっかりひとの捌けた階段下のホールに、朝来くんが帰ってきたのだ。
「その、アゲハは……妹は迎えの車で帰した……」
陽咲ちゃんは自分を狙っていた黒幕の正体に驚いただろうに……。朝来くんの言葉に、複雑そうに頷いた。
まさか犯人がアゲハさんだったなんて。そりゃぁ学校内でも仲はいいって評判だったけど……まさか、ブラコン……?
「それと……瑠夏」
続いて朝来くんが、坊さんと並んで立っている瑠夏さまに向かい合う。
「今まで、誤解して犯人扱いして……すまなかった」
まっすぐに頭を下げる朝来くん。あぁぁぁあぁっ!!そう、そうなのよ……!熱血系向こう見ずな朝来くんだけど、こう言う時にはきっちり謝れる……!でもそうじゃなきゃ……陽咲ちゃんを嫁にはやれないわ!!
そして瑠夏さまの答えは……っ。
「謝罪は受け入れます」
ああぁ~~っ。瑠夏さまだってつらかっただろうに!!それでも凛々しくそう告げるさまが尊すぎる……!
「誤解は誰にでもあることですから」
「瑠夏……」
「その、私からも……陽咲さんに話さないといけないことがあります」
「私に……ですか?」
びっくりする陽咲ちゃん。そりゃぁ……ずっと見つめ続けていても瑠夏さまと視線が合ったらビクンとしちゃうものね……!もちろんいい意味よ……!
「あと……あなたにも聞いて欲しいのです」
瑠夏さまはそう言うと朝来くんを見やる。
「ぼくにも……?」
「えぇ……もともと……陽咲さんだけに話そうと思ったのですけれど……今のあなたになら、一緒に聞いて欲しいと思いました。茶室を用意してますから……」
そう言えば瑠夏さまは陽咲ちゃんを呼んだって……。何か重要な話があったってことなの?
「……分かった……ありがとう。瑠夏」
「……いえ。それから……冬氷さんや霜華たちも……あなたたちもよければいらして。璃音さんのおうちの方なのでしょう?」
「……えと……うん。……まぁ」
坊さんが頷く。この短い時間で、何かすごく把握してない!?むぁ確かに霜華さんはこちらに来ていたけど……。まるで霜華さんがこちら側だって最初から分かっていたようだ。
そして……、訪れたのは椅子席の茶室である。一同席につくが、椿鬼や霜華さん、多津真さんたちは壁際に控えている。私も壁際~~と思ったのだが、椅子が用意されていたので……素直に座りましたとも……。ご厚意は受け入れなくては。うん。
「それで……お話と言うのは、陽咲さんのことです」
「私のこと……ですか?」
「……えぇ……わたくしも先日お父さまから知らされました。陽咲さんはお父さまが亡くなられて現在お母さまと2人暮らしと聞きました」
「はい……そうです」
そうなのよ……そうなの……!家計だってそんな裕福ではないのに、陽咲ちゃんは勉強を頑張って、授業料全額免除と言う特待生枠を勝ち取ったのよ……!
あぁ……頑張り屋さんな上に天使なヒロインちゃん……っ!陽咲ちゃんがかわいすぎるわぁ~~っ!
「お父さまの生家については、何かご存知?」
「え……と、それは……母からは絶縁しているとしか……。うちは両親ともに実家や親戚とは絶縁しているんです。詳しい理由までは分かりません」
「……その件ですが……陽咲さんのお父さまは……元々は海守の長男……わたくしのお父さまの兄なのです」
「え……っ」
ふぇ……?てことは瑠夏さまと陽咲ちゃんって……従姉妹じゃない……!
「ですが……家同士が決めた縁談を破談にして駆け落ちしてしまったので、海守家から勘当された状況になっておりました。ただ……お父さまはそれでも祖父母から当主としての座を受け継いでから……陽咲さんのお父さまを探されていたんです。しかし……既に陽咲さんのお父さまは他界し、陽咲さんはお母さまと生活されていました。ですがそれならばとお父さまが支援を名乗り出たそうなのです」
「そんな話は……っ」
「きっとお母さまも隠されたかったのでしょう。それを聞き付けた……陽咲さまのお母さまのご両親が……海守家にお金を要求したそうです」
「そんな……っ。そう言えば……小さな頃はおじいちゃんとおばあちゃんに会っていたけど……引っ越してからはもう会わなくなって……絶縁状態が続いていたんです……」
「えぇ……恐らく、親戚縁者からの金の無心を断るためでしょう。それで長らく陽咲さんのお母さまは、陽咲さんと2人で暮らしていたのかと」
「そう……だったのですね……」
さすがの陽咲ちゃんもショックを隠せないみたい……。
「お父さまは、陽咲さんのお父さまの勘当を解いてもいいと仰っています。それから……陽咲さんが朝来さんと本気で……お付き合いをされるのなら……」
「それは……っ」
「その……っ」
初々しくたどたどしくなるこのカップルが尊いいぃぃっ!
「きっとこれからも……アゲハさんのように危害を加えてくる手はいくらでもあるでしょう」
「それは……っ」
朝来くんが苦渋の表情を浮かべる。
「だからこそ勘当を解き、海守の中に入れば、少なくとも海守のシークレットサービスが動きます。海守が陽咲さんとお母さまを海守家の一員として迎えることで、守る手も増えましょう。花見咲にとっても悪い話ではありません」
「そんな……その、それはそうだが」
朝来くんが不安そうに陽咲さんを見る。
「陽咲さん、よければこの後、陽咲さんのお宅へ伺ってもよろしいかしら。よければお母さまとも話がしたいのです」
「それなら……夕方にならお母さんぎ帰りますから……」
「では、決まりですね」
瑠夏さまが微笑まれる。
「なら、ぼくも……」
と、朝来くんが手をあげるが。
「朝来さんは、アゲハさんの元についていてあげてくださいませ。どうして今回のようなことをしたのか……しっかりと話を聞いてあげて欲しいです」
「……そうか……そうだな……分かった。陽咲のことは……任せる」
こうして、放課後瑠夏さまは陽咲ちゃんの家へ訪問することになったのだけど。
「それから、御星冬氷さんでしたね」
「ひゃ……、ひゃいっ!?」
ま、まさかの瑠夏さまからの直接指名……!?あぁ……でも怒られるかしら……隠れて撮ってたことぉ――――……。
「冬氷さんのお陰で、こうして無事に伝えたいことを伝えられたと思っています」
「そんな……私は単に……」
推し活していただけなのだが。
「もしかしたら璃音さんがとは思ったのですけれど……」
え?坊さん……?
一方で坊さんは椿鬼をねめつけた!!いや、あながち間違いではない……のか?
「真白さんから、あなたがわたくしのファンだと聞いていて……」
え、真白さまから……!?
「そしてわたくしのことも、犯人ではないと無実を信じて、証明すると言ってくださったのは、とても嬉しかったのです」
はぅぁぁぁっ!私今、推しに感謝されてるぅっ!!尊死ぃぃっ!!
「だから……今度からは影からこっそりではなく、一緒にお話がしたいわ」
「……っ、それは……っ」
「今度冬氷さんをお茶に誘ってもいいかしら?」
「よ……喜んで……!」
ひゃーっ!推しティータイムに誘われちゃったんだけど~~っ!?
「あ、でもそれでしたらヒョウカちゃんも……」
「えぇ、冬氷さんのお友だちなのでしょう?是非いらして?」
「あ……ありがたき幸せぇっ!!」
ヒョウカちゃんったら……でも分かるなぁ……。何たって推しとのティータイムだもの。
だが次の瞬間。
「じゃぁその時はお嬢の執事バイトするわ~~」
との霜華さんの言葉に、ヒョウカちゃんが「ぴえぇ――――――っ!?」と震え上がった。
「いけませんよ、霜華。わたくしのお友だちなのです」
「んー、まぁそうだね。うちの坊の目も恐いし」
あ、坊さんも珍しく威嚇してた――――。
こうして、一件落着となったわけだが。
「そう言えば……この前は霧連くんも一緒にいなかったかしら……?彼は今日は来ていないのね。昨日はお休みされていらしたし……体調がすぐれないのかしら」
どてっ。いや……本当はそこにいるんだけど……。
ばらしてもいいのだろうか、これ。
「あ、あいつはその……、明日は来るよ」
との坊さんの言葉に、瑠夏さまは「それなら良かったです」と笑顔で頷いたんだけど……。
ちょっと椿鬼……!そんな失笑してると坊さんに後で怒られるってば……!まぁ坊さんは今は瑠夏さまのかわいらしい笑顔に夢中だけども……!
あれ……そう言えば例の件……。
うっかり頭隠のひとたちと顔を合わせてしまったけれど何ともなかったわね。椿鬼の婚約者になったから……その効果かしら。でも……結局私を狙った犯人は……誰だったのだろうか……?
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